飲食店の原状回復義務と費用|工事はどこまでするべき?
2023年2月1日
飲食店には原状回復義務があるため、費用を抑えるコツや相場について知りたい方も多いのではないでしょうか。費用を安く抑えるには、「禁煙にする」「相見積もりを取る」など具体的な方法が複数あります。
今回は、飲食店の原状回復義務について紹介したうえで、費用の相場や安く抑えるコツを解説します。併せて、工事範囲やトラブル例についても紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
飲食店の原状回復義務
飲食店が退去する際は、物件を原状回復させなければなりません。原状回復とは、賃貸契約を結んでいる店舗を、借りる前の状態に戻すことを指します。
なぜ原状回復が必要かというと、飲食店など事業を目的に使用する店舗の場合、新たに内装を工事したり、造作物(建物内部の部材や設備)を変更したりするケースが多いためです。賃貸借契約に記載されている原状回復の範囲は守る義務があるため、物件を契約する際は十分に確認しておく必要があります。
場合によっては、建物の梁や柱などの骨組み以外はすべて解体する「スケルトン工事」が必要なケースもあるので注意しましょう。
ただし、居抜き物件として次の借主へ譲渡する場合は、店舗の設備や内装を撤去せずに退去できます。もちろん貸主側の承諾を得ることが前提ですが、費用がまかなえないときの打開策になるので、検討してみるのも一つの手です。
飲食店の原状回復費用の相場
飲食店によって原状回復の範囲はケースバイケースですが、一般的な坪数ごとの費用相場は以下のとおりです。
店舗規模 | 店舗坪数 | 費用相場(1坪あたり) |
小規模 | 10坪未満 | 1万1,700円~ |
小規模 | 10~20坪 | 2万1,600円~ |
中規模 | 21~30坪 | 2万3,600円~ |
中規模 | 31~40坪 | 2万3,100円~ |
中規模 | 41~50坪 | 2万1,700円~ |
大規模 | 51坪以上 | 4万8,800円~ |
小規模、中規模な店舗は1坪あたり1万円~2万円台と比較的リーズナブルですが、51坪以上の大規模な店舗になると1坪あたり5万円近い金額へと相場がアップします。
なお、商業施設のテナント店の場合、夜間に工事を行うケースが多く、通常よりも3割から5割ほど費用が高くなる可能性があるので注意しましょう。そのほかの例として、「地上2階以上、もしくは地下に店舗があるため運搬に手間取る」「排気ダクトなど複雑な設備がある」などの条件に該当する場合も、相場より高い工事費になる恐れがあります。
飲食店の原状回復費用を安く抑えるコツ
ここからは、飲食店の原状回復費用を安く抑えるためのコツとして、以下4つを紹介します。
- 禁煙にする
- 店内の造作物が少ない
- 相見積もりを取る
- 居抜き物件として譲渡する
すぐに実践しやすいコツも含まれていますので、ぜひ参考にしてください。
禁煙にする
店舗を禁煙にすることで、費用を抑えることにつながります。というのも、タバコが吸える店舗の場合、ヤニ・臭いが天井や壁紙へと付着してしまい、一部の修繕ではなく全面張替えになる可能性が高いためです。一方、禁煙にした店舗であれば、ヤニなどが付着しないので修繕費を抑えられます。
ただし、2020年4月より一部改正の健康増進法が全面施行されたことを受けて、原則的に屋内は禁煙となりました。それに伴い、喫煙可能な飲食店は、飲食等不可の「喫煙専用室」、もしくは飲食等可能の「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置が選択できるようになっています。
このような喫煙室を設置している店舗の場合、高性能な空気清浄機などを設置して、臭いやヤニが付着しづらいように普段から工夫しておくとよいでしょう。
店内の造作物が少ない
飲食店の運営をスタートさせる段階で、店内の造作物を少なくしておくのも有効といえます。なぜなら造作物が少ない店舗の場合、解体工事にかかる費用を抑えやすいためです。
例えば、個室を作るために間仕切りで細かく区切ってしまうと、撤去に費用がかかってしまいます。しかし、ロールスクリーンなどを活用すれば、天井に設置するだけで簡単に使えるため、退去時の柱や壁に関する工事も省けるでしょう。
お店の業態やコンセプトによって向き不向きはありますが、なるべく造作物を少なくしておくことは大切なコツです。
相見積もりを取る
費用を安くするには、相見積もりを行うことも重要なコツといえます。というのも、一つの工事業者のみに見積もりしてもらう場合、提出された見積もり額が妥当であるかの判断がしづらいためです。
それに対し、複数の工事業者から見積もりを提出してもらえば、工事内容ごとの費用が相場通りか把握しやすくなります。貸主によっては、工事業者を指定してくるケースもあるので注意が必要ですが、指定業者以外の相見積もりを承諾してもらえる場合もあるため、気になる場合は相談してみましょう。
居抜き物件として譲渡する
居抜き物件として後継者へ譲渡することでも、費用を抑えられます。これは、造作譲渡ともいわれる方法で、既存の設備や内装を据え置きのまま退去することが可能です。
借主は撤去にかかる工事費用を負担する必要がなく、新たな入居者は設備や内装の投資金額を抑えられるため、双方にとって好都合な方法といえます。ただし、居抜き物件として譲渡するには、事前に貸主から了承を得なければならない点は留意しておきましょう。
飲食店の原状回復工事の範囲
飲食店が退去する際、原状回復は基本的に借主側がすべて負担しなければなりません。その際、ポイントとなるのは、「経年劣化」「通常損耗」の範囲も借主側が負担する点です。
例えば、居住用物件を退去する場合、経年劣化や通常損耗に関して負担するのは、貸主側と規定されています。しかし、事業者が物件を退去する場合は、業種ごとに物件の利用度合いが大きく異なるため、経年劣化や通常損耗の範囲も借主が負担しなければならないのです。
飲食店の原状回復で多いトラブル
ここからは、飲食店の原状回復で多い3つのトラブルを見ていきましょう。
- 結露によるカビ
- タバコや煙の臭い・油汚れ
- 原状回復の範囲・費用
いずれも飲食店で起こりやすいトラブルなので、原状回復の費用を抑えるためにも、ぜひチェックしてください。
結露によるカビ
結露が原因のカビが店内に発生すると、掃除してもカビの跡が残り、退去の際に原状回復の費用がアップする恐れがあります。特に、飲食店の場合は、室温と外気温で差が生まれやすいため、結露対策として定期的に換気を行うことが重要です。
万が一、カビが発生した際は、水場のカビには「塩素系カビ取り剤」を使い、それ以外のカビには「消毒用エタノール」を使って繁殖を抑えるのも有効でしょう。
タバコや煙の臭い・油汚れ
タバコや煙の臭い、油汚れに関しても、飲食店でトラブルになりやすいポイントです。汚れや臭いの状態がひどい場合は、賃貸借契約で天井や壁紙の撤去が規定されていないケースであっても、原状回復を求められる可能性があります。
タバコに関しては、先述のとおり喫煙室に空気清浄機などを設置して工夫するのがおすすめです。一方、油汚れに関しては、定期的に清掃を実施するほか、スプレータイプの汚れ防止コートを使ってもよいでしょう。あらかじめコーティングしておくことで、掃除の際に汚れが落ちやすくなるので、掃除時間の短縮にもつながります。
原状回復の範囲・費用
一口に原状回復といっても、物件によって回復すべき範囲は異なるため、借主と貸主がそれぞれ負担するポイントをしっかりと把握しておくことが大切です。例えば、借主負担とされていた原状回復が実施されていなかったために、再工事が必要になる可能性もあります。
このようなトラブルを避けるには、賃貸借契約の内容を細かく確認したり、業者見積もりの際に貸主へ立ち会ってもらったりする対策が有効です。特に後者の対策は、双方が合意したうえで工事を開始させるので、退去時のトラブル防止へとつながります。
まとめ
飲食店の退去時は原状回復義務があり、基本的には借主がすべて負担しなければなりません。少しでも費用を安く抑えるために、「相見積もりを取る」「居抜き物件として譲渡する」などのコツを押さえておく必要があります。
また、結露によるカビや油汚れなどに関するトラブルも起こりやすいので、スムーズに退去するには事前の対策が重要です。これから転居を考えているという方は、ぜひ今回の内容を参考にしてみてください。