原状回復工事におけるアスベスト調査の対象範囲|補助金についても解説
2024年1月31日
原状回復工事を行う際には、アスベスト調査を行うかどうかを判断する必要があります。アスベストは、体内に入ると健康被害を引き起こす可能性があるため、アスベストの含有の有無を把握しておくことが重要です。
そこで本記事では、原状回復工事におけるアスベスト調査の対象範囲について解説します。また、アスベスト調査にかかる費用を抑える方法として、補助金の活用についてもご紹介します。
アスベストの事前調査結果の報告とは
アスベストは、強度や耐熱性に優れた建材として、かつて広く使用されていました。しかし、アスベストを吸い込むと、肺がんや中皮腫などの健康被害を引き起こす危険性があることが判明し、現在では使用が禁止されています。
アスベストによる健康被害を防止するため、建築物等の解体・改修工事を行う際には、事前に石綿含有の有無について調査する必要があります。この調査結果を、都道府県等に報告することが義務付けられています。これが、アスベストの事前調査結果の報告です。
報告の対象となる工事
アスベストの事前調査結果の報告の対象となる工事は、以下のとおりです。
- 建築物の解体工事(解体作業対象の床面積の合計80㎡以上)
- 建築物の改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込))
- 工作物の解体・改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込))
対象となる建物は、建てられた年数に関係なく、アスベストが使用されている可能性がある場合は、すべて報告の対象となります。
引用元:環境省「4月1日から石綿の事前調査結果の報告制度がスタートします ~3月18日から電子システムによる報告ができます~」
原状回復工事も、上記のいずれかの条件に該当する場合は、報告の対象となります。具体的には、以下の2つのケースが考えられます。
- 原状回復工事を行う建築物等に、石綿含有建材が使用されていることが明らかな場合
- 原状回復工事を行う建築物等に、石綿含有建材が使用されている可能性がある場合
調査結果を報告する義務者・報告期限
調査結果を報告する義務者は、工事の元請業者又は自主施工者です。具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 建築物の解体工事を請け負った業者
- 建築物の改修工事を請け負った業者
- 工作物の解体・改修工事を請け負った業者
また、原状回復工事を行う場合も、上記のいずれかの条件に該当する場合は、報告の義務者が存在します。
具体的には、以下の2つのケースが考えられます。
- 原状回復工事を行う建築物等に、石綿含有建材が使用されていることが明らかな場合
- 原状回復工事を行う建築物等に、石綿含有建材が使用されている可能性がある場合
調査結果の報告期限は、工事の着工日の15日前までに、都道府県等に報告する必要があります。また、調査結果により、石綿含有建材が使用されていることが確認された場合は、除去工事の計画を作成し、都道府県等に届出する必要があります。
この届出の期限は、工事の着工日の7日前までに、都道府県等に届出する必要があります。
調査結果の報告義務を怠った場合
アスベスト事前調査結果の報告義務を怠った場合は、以下の罰則が科せられる可能性があります。
- 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 法人の場合、100万円以下の罰金
また、労働基準監督署への報告も義務付けられています。この報告を怠った場合も、以下の罰則が科せられる可能性があります。
- 6月以下の懲役または50万円以下の罰金
- 法人の場合、50万円以下の罰金
罰則の対象となる者は、調査結果を報告する義務者である、工事の元請業者又は自主施工者です。罰則を回避するためには、以下の点に注意しましょう。
- 報告の義務者であるかどうかを事前に確認する
- 報告期限内に必ず報告する
- 虚偽の報告を行わない
アスベストによる健康被害を防止するためには、アスベスト事前調査結果の報告は重要なものです。報告義務を怠ることのないよう、十分に注意しましょう。
原状回復工事におけるアスベスト調査結果の報告の対象範囲
原状回復工事におけるアスベスト調査結果の報告の対象範囲は、以下のとおりです。
対象となる工事 | 対象外の工事 |
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具体的には、以下のような工事が対象となります。
- 新築時に使用されたクロスを、既存のクロスを剥がして張り替える場合
- 壁や天井に穴が開いた場合、その穴を補修してクロスを張り替える場合
- 床をフローリングからタイル張りにする場合
- 浴室の壁や天井にタイルが貼られていない場合、クロスを張り替える場合
以下のような工事は対象外となります。
- クロスが剥がれている箇所を、そのまま貼り直す場合
- 床にワックスをかける場合
- 浴室の壁や天井に防水工事を行う場合
原状回復工事を行う際には、事前にアスベスト調査を行うかどうかを判断する必要があります。対象となる工事を行う場合は、必ずアスベスト調査を行い、調査結果を都道府県等に報告するようにしましょう。
アスベスト事前調査費用は物件オーナーが支払うのが一般的
アスベスト事前調査費用は、原則として、工事の発注者である物件オーナーが負担するのが一般的です。
これは、アスベストによる健康被害を防止するためには、アスベストの含有の有無を事前に調査し、必要に応じて適切な除去工事を行うことが重要であるためです。そのため、工事の発注者である物件オーナーに、その責任と費用負担を負わせることが合理的であると考えられているのです。
ただし、アスベスト事前調査費用を工事の発注者以外の者が負担するケースも考えられます。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 賃貸物件の改修工事の場合、家主と借主の間で事前調査費用の負担を合意している場合
- 公共施設の改修工事の場合、国や地方自治体が事前調査費用を負担している場合
アスベスト事前調査・除去工事には補助金がある
アスベスト事前調査・除去工事には、国や地方自治体から補助金が出る場合もあります。アスベスト事前調査の補助金は、国や地方自治体によって、補助対象や補助内容、補助金額などが異なります。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 国:アスベスト事前調査等助成事業(補助対象:建築物・工作物)
- 東京都:アスベスト調査等助成事業(補助対象:建築物)
- 大阪府:アスベスト調査等助成事業(補助対象:建築物・工作物)
- 除去工事の補助
- 調査:1週間~10日程度
- 除去工事:数日~数週間程度
アスベスト事前調査および報告・除去工事の流れ
所有する建物にアスベストが使用されていた場合、除去が必要であることを踏まえて、調査・報告・除去工事の流れを紹介します。
1.専門家に依頼する
アスベスト事前調査は、アスベストの含有の有無を専門家に調査してもらう必要があります。専門家とは、厚生労働省の認定を受けた、アスベスト調査に必要な知識と経験を有する者です。
2.書面・現地調査を行う
専門家は、調査対象建物の図面や設計図書などの書面調査と、現地調査を行います。書面調査では、建物の構造や使用されている建材の種類などを確認します。現地調査では、建材の表面や内部を調べて、アスベストの含有の有無を判断します。
3. 報告書を作成する
専門家は、調査結果を報告書にまとめます。報告書には、調査対象建物の概要、調査方法、調査結果、分析結果、結論などが記載されます。
4. 除去工事に必要な届出をする
石綿含有建材の除去工事を行う場合は、労働基準監督署に届出を行う必要があります。届出には、工事の内容、除去工事の方法、作業者の資格、除去工事を行う場所の名称や所在地などが記載されます。
5. 除去工事を実施する
除去工事は、専門の業者に依頼して行います。除去工事では、アスベストを飛散させないように、適切な安全対策を講じながら行います。
調査と除去工事にかかる期間の目安は、以下のとおりです。
調査と除去工事には、建物の規模や建材の種類、除去工事の方法などによって、期間が異なる場合があります。
まとめ
アスベストの事前調査結果の報告は、アスベストによる健康被害を防止するために重要なものです。工事を行う際には、必ず事前調査を行い、報告をするようにしましょう。