宅地造成工事とは?規制区域内は許可が必要|工程・費用を抑えるコツや注意点を解説!
2023年5月31日
宅地造成工事という言葉をご存じでしょうか。
山や傾斜のある土地、田んぼや畑などがあった土地にマイホームを建てるために必要な工事です。宅地造成工事はエリアや工事の内容によって制約があるため、空き地などの土地を所有している人や、土地の購入を検討している人にとっては、知っておくべき知識でしょう。
この記事では、宅地造成工事の基礎知識や費用を抑えるコツ、宅地造成工事を行う場合の注意点などを紹介します。
宅地造成工事とは
宅地造成工事とは、家づくりの基盤となる土地を安全性に配慮して整備する工事のことをいいます。
山地や森林・農地などの土地を宅地として活用する場合、建物が建てられるよう整備が必要となります。たとえば、傾斜のある土地であれば、盛り土や切土をして平坦に整えるなどの工夫が必要です。
ただし、土地はただ単に平らであれば良いというわけではありません。地震などの災害が発生した時でも、建物の崩壊による被害を回避できるだけの安全性が必要です。土地の形をただ整えるだけでなく、安全に配慮して元々弱い地盤を強化したりすることも家づくりをするうえでとても大事な工程です。
以下に宅地造成工事の工程を紹介します。
■ 宅地造成工事の工程
作業内容 | 説明 |
---|---|
整地 | がれきやガラス片、石や木くずなど、建物解体後の異物をきれいに取り除き、土地を踏み固めて平らにすること。造成工事において必要な基礎工事。 |
伐採・抜根 | 建物を建てるのに邪魔になる草木などを根から除去し、再び生えて来ないように、防草シートを敷いたりする処置。 |
地盤改良 | 地盤沈下や傾き、ひび割れなどの事故を防ぐために弱った地盤を安定させる処置。セメント系の固化材を混ぜ合わせて土地の表層部分の土の強度を上げ、地盤の安定性を高めるのが一般的な方法。 |
盛土・切土 | 道路よりも高い土地の地面を削って低くする工事を「切土」、低い位置にある土地の高さを補うために土砂で地上げする工事を「盛土」という。 |
残土の処理 | 切土などにより出た不要な土砂を敷地外に運び処分すること。一般廃棄物としては処分できない。受け入れ先や土質に関しては各都道府県で指定・規制されている。 |
宅地造成工事が必要な土地の特徴
宅地とは、平たく言うと建物を建てるための土地という意味です。農地や森林、道路、公園、そして法令で公共施設用の土地と定められている土地以外が宅地にあたります。そのため、駐車場やテニスコート、墓地なども宅地に分類されます。
傾斜になっている土地や山、田んぼや畑など、宅地以外の用途で使われていた土地を宅地として使用したい場合に、宅地造成工事が必要となります。これらの土地の特徴は3つの種類に分類できます。
造成工事が必要な土地の種類
- 変形している土地
- 道路との高低差がある土地
- 地盤が弱い土地
それぞれの特徴と必要となる造成工事について見ていきましょう。
参考元:川崎市「宅地造成工事について」
変形している土地
変形している土地や、特殊な形になっている土地の場合は整備が必要です。
たとえば住宅を建てる際、土地が五角形になっていると無駄な面積が多くなるため、使いやすい形になるように造成工事を行う方が良いでしょう。とくに住宅の場合は、四角形に整えるのが利用しやすくおすすめです。
元の土地が特殊な形の場合は特別な目的がない限り、整備した方が土地を有効活用できます。
道路との高低差がある土地
高低差がある土地の場合は、土地を平面にならして整える必要があります。
たとえば山の斜面に小屋を作るときは、床の面が水平になるように土地を調整します。盛土や切土をして土地を平面にならし地盤改良をすることで、山の斜面でも建物を建てられるようになります。
地盤が弱い土地
田畑のように地盤が弱い土地の場合は、土地を補強する必要があります。
地面の土がやわらかくふかふかとしていると、土地の耐久性が不十分となります。そのままの状態で家を建てると、家の重みで地盤沈下が起こり、家が傾いてしまう原因となるでしょう。
造成工事を行うことで地盤の強度が変わるため、地盤沈下のような大きなトラブルを防ぐことができます。地盤が弱い土地に建物を建てる際は造成工事が必須と言っても過言ではないでしょう。
宅地造成工事には許可が必要な土地もある
宅地造成工事はどこでも自由に行えるわけではありません。自然災害の危険性が高いエリアでは自治体の許可が必要と法律で定められています。これは、自然災害が多い日本で、人々の命や家屋などの財産を守るために設けられた造成工事にかかる規制です。
この法律を宅地造成等規制法といいます。この法律では、土砂災害やがけ崩れが懸念されるエリアでの造成工事には、各自治体からの許可が必要であると定められています。その規制されたエリアを宅地造成工事規制区域と言います。
宅地造成工事規制区域は、自治体による調査によって指定されています。地盤や土地の状態から土砂崩れやがけ崩れなどの災害が起こりやすいエリアが選定されます。家を建てようと計画している土地が規制区域かどうかは各自治体の役所で確認できます。
区域内の宅地造成工事を行うには、事前に地盤改良や擁壁(ようへき)工事の計画が技術基準に適合していることを示して工事の許可を受けなければなりません。作業の影響で災害を招く恐れがあるからです。さらに工事終了後にも安全性が基準に適合しているかの検査を受ける必要があります。基準に適合していれば検査済証が交付されます。もし不十分で不適合となれば工事のやり直しを要求されます。
工事の許可が必要になる造成工事の内容
以下は許可が必要となる造成工事の内容です。
■ 許可が必要になる工事
- 切土工事によって高さ2m以上の崖、または30度以上の傾斜が生じるケース
- 盛土工事によって高さ1m以上の崖、または30度以上の傾斜が生じるケース
- 盛土が1m以内でも切土と合わせて高さ2m以上、または30度以上の傾斜の崖が生じるケース
- 500㎡を超えるすべての造成工事
これらの造成工事は、完了後に自治体が安全性を確認する検査を行ないます。また、中古の一戸建てを購入した場合でも、それが宅地造成工事規制区域内であれば、定期的に土地の点検が実施され、問題があれば工事での改善を要求されることもあります。
土地や物件を購入する際は、宅地造成工事規制区域内かどうかを確認しておくと良いでしょう。
宅地造成工事の費用を抑えるコツ
ここまで造成工事の基礎知識について触れてきました。造成工事は家の耐震性・強度や安全面に関わる工事なので、大きな節約は期待しない方がいいでしょう。とはいえ、以下のようなコツを知っておくことで、少しでも費用を抑えられることは可能です。
【宅地造成工事の費用を抑えるコツ】
- 複数社の見積もりを取って比較する
- できる範囲で廃棄処理を自分で行う
- 工事と同じ年に建築までを一気に終わらせる
宅地造成工事は、業者によっても金額が料金体系は異なります。
ハウスメーカーや不動産会社を通して、造成工事を行ってくれる業者を紹介してもらうことも可能です。ただし、仲介料が発生する場合もあるので、費用を重視するのであれば自分で調べて直接依頼するほうが費用を抑えることができるでしょう。
複数社の見積もりを取って比較する
整地作業程度で終わる工事から大規模な地盤改良が必要な工事まで、土地によって造成工事の規模や種類は異なります。
特に盛土や切土は作業量が多く費用が高くなる傾向があります。
また、田畑や山林などの場合は地盤改良や木々や植物の伐採および処分が必要となり、コストが高くなりやすいと考えられます。
そのため、造成費用のおおまかな目安でも算出するのが困難となり、業者に見積もりを取るのがいちばんの近道です。
ただし同じ状況の土地であっても、採用する造成工事の手法は業者によって異なります。費用設定もそれぞれに異なるため、複数の業者に相見積もりをとってから依頼するのが良いでしょう。
できる範囲で廃棄処理を自分で行う
造成工事自体は業者にしかできませんが、工事前の下処理は自分たちでもできます。例えば、可能な範囲で草むしりをしたり、ゴミや瓦礫などの異物を取り除いておくだけでも、業者の作業量を減らすことができます。
また工事で発生する廃棄物処理においても、業者任せにせずに自分で行政に引き取りを依頼したり、リサイクルショップに持ち込めば、少し手間はかかりますが費用節約につながるでしょう。
工事と同じ年に建築までを一気に終わらせる
造成工事後に住居を建てる場合は、造成工事と新居の建築時期をしっかり計画して行うことでも費用節約が可能です。なぜなら、新居の建築時期によって固定資産税の負担額が変わるからです。
固定資産税の額は、1月1日から翌年の1月1日の期間の固定資産の所有状況で決まります。そして、固定資産税の優遇は、毎年1月1日時点で住宅が建っている土地に適用されます。建物の有無によって税制の扱いが異なり、建物が立っていない状態だと固定資産税が高くなる可能性があるのです。
そのためスケジュールを調整して、1月1日までに住宅が建つようにすると良いでしょう。
宅地造成工事を行う場合に抑えておきたい注意点
トラブルなく宅地造成工事を行うために、知っておきたい注意点を紹介します。
【宅地造成工事を行う場合に抑えたい注意点】
- 近隣への事前説明は必須!
- 造成工事の費用は住宅ローンに含まれない
- 入居後に増築する場合は再度許可が必要
- 入居後に改善勧告や命令を受ける可能性もある
長く安心して暮らしていくために、近隣住民への理解や宅地造成等規制法に関してしっかり理解しておくことが大切です。
近隣への事前説明は必須!
最も懸念されるのが近隣住民とのトラブルです。事前に挨拶に伺い、工事が始まる旨と説明をきちんとしておきましょう。途中で工事の内容が変わった場合でも説明を欠かさないのが大切です。
造成工事は重機による騒音や振動がどうしても避けられません。しっかりと工事内容を伝えて、了承を得るようにしましょう。誠意を持って対応し、家が建ってからも気持ちの良い関係でいられるように努めましょう。
そして、擁壁を設置する場合も細心の注意が必要です。建て替えや万が一事故が発生した際に、隣接住宅との境界が曖昧だと、所有や責任を巡ってトラブルに発展する可能性があります。このトラブルを回避するために、擁壁を設置する前に隣接住民としっかり境界線を確認しておくことが重要です。境界杭を参考にして、双方が納得できる擁壁の位置を決めましょう。
造成工事の費用は住宅ローンに含まれない
先にも述べましたが、造成工事は業者によって採用する工程も価格設定も異なります。加えて都道府県や工事の規模によっても価格に大きく幅があるため、数10万円のところもあれば、100万円以上かかる場合もあります。また、土地の高低差や傾斜が大きいほど1㎡あたりの費用が上がったり、造成工事後に残土や伐採した草木の処分費用が追加で必要になる場合もあり、予算は大目に見ておくのが無難でしょう。
大抵の人は家を建築する際に造成工事をするため、混同してしまうかもしれませんが、造成工事費用に住宅ローンは使えません。
造成工事の費用は「つなぎ融資」や「分割融資」を利用するか、自己資金で補う必要があります。
- つなぎ融資:*****住宅ローンの開始前(住宅引渡し前)に、一時的に借り入れできる融資
- 分割融資:******住宅ローンの受け取りを複数回に分けられて、住宅引渡し前に受け取れる融資
事前に費用を念入りに確認して、ご自身にあった資金計画を立てるようにしましょう。
入居後に増築する場合は再度許可が必要
入居前に一度許可を受けた土地であっても、増築や改築をするために新たに切土をするなどの宅地造成工事が必要になった場合は、その都度許可を得る必要があるため注意が必要です。
何度も許可申請をしなくて済むように、最初の時点で今後の生活を長い目で見て計画を練るようにしましょう。
入居後に改善勧告や命令を受ける可能性もある
工事の許可というとつい新築時のルールと捉えがちですが、既に造成済みの宅地でも、既存の擁壁や排水設備が経年劣化などで危険だと判断された場合、改善の勧告や命令を受けることがあります。この際の工事も改めて許可が必要になります。
宅地造成工事規制区域内で不動産を購入するときのポイント
購入した土地が宅地造成工事規制区域に該当することが後から判明して資金計画の練り直しや理想の家を建てられないということが無いように、不動産の購入を検討する時点で規制区域かどうかを確認するようにしましょう。どこが宅地造成工事規制区域に指定されているかは、自治体のホームページや窓口で確認できるほか、その物件を取り扱っている不動産会社に教えてもらえるので確認しておきましょう。
次に宅地造成工事規制区域内の不動産を購入するときの注意点を以下の3パターンで紹介します。
【宅地造成工事規制区域内の不動産を購入するときの注意点】
- 土地を購入する場合
- 分譲地を購入する場合
- 中古一戸建てやマンションを購入する場合
土地を購入する場合
規制区域内の土地を購入して、更に造成を自ら手配して行う場合、当然造成工事分の費用が余計にかかります。土地の価格は安いでしょうが、造成費用と合わせてどれくらいの費用になるのか、購入前に調べておくと安心でしょう。4tトラックが現場まで入れるか、2tトラックで往復するかによっても運送費も変わりますし、切土で出た残土の処理費用も必要です。規制区域内の土地を買って家を建てたい場合は、販売している不動産会社などに造成工事について念入りに相談したほうがいいでしょう。
また、住み始めてから増築や改築をするために切土や盛り土をする場合も工事の許可が必要になります。そのため、何度も増改築をせずに済むように、家族構成やライフプランを十分に検討した間取りをあらかじめ考えておくと良いでしょう。
分譲地を購入する場合
宅地造成工事規制区域内の分譲地が販売されていた場合、その土地は既に必要な造成工事が完了しています。そのため、別途で造成費用を準備する必要はありませんが、造成工事費用分土地代が相場より高い可能性があります。
購入前に必ず宅地造成工事の「検査済証」があるかを確認するようにしましょう。
中古一戸建てやマンションを購入する場合
宅地造成工事規制区域内の中古一戸建てやマンションを購入する場合は、分譲地購入時と同様に、まずは「検査済証」の有無を確認しましょう。
特に古い戸建ての場合は、既存の擁壁を目で見て確認しましょう。宅地造成等規制法の法律の施行以前の擁壁だと、確認申請をしていない場合があります。また、既存の擁壁や排水施設の老朽化が進んでいると、危険性が高いと判断され、改善命令を受ける可能性があります。そうなると許可を受けて造成工事をしなければならず、費用もかかります。そのため「検査済証」の確認だけでなく、必ず現地へ行き、擁壁の状態を自らの目で見て確認しましょう。その際にもし不安を感じるようなら、将来的に工事が必要になる可能性も踏まえ、工事費用はいくらくらいになるのか調べておきましょう。そのほか購入後に増改築をするために切土や盛土をするのであれば、新築一戸建て同様、工事の許可が必要になるので覚えておきましょう。
中古マンションの場合は、管理費として積立修繕金がありますが、万が一住んだ後で造成工事が必要になったときはそのお金が使われるのか、別途集金されるのか確認しておくと安心です。
まとめ
宅地造成工事とは山林や田畑などに家を建てられるよう、平らにならしたり地盤を改良する工事のことです。工事の種類はいくつかあり、土地の状態によってその規模や費用は変わってきます。どこでも自由に造成工事ができるわけではなく、自然災害などで大きな被害が出る恐れがあると都道府県が判断した土地は宅地造成等規制法により規制され、工事前及び工事完了後に都道府県の許可を受ける必要があります。
宅地造成等規制法について正しく理解し、長く安心して暮らせる家づくりをしましょう。