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コラム

テナント撤去における原状回復特約の例文とは?作成時の注意点も解説

2023年10月2日

事務所や店舗などのテナントの原状回復義務は居住用物件とは異なり、借りたときの状態に戻すことが特約で定められているのが一般的です。また、原状回復工事を委託する業者についても、特約で決められていることがあります。

テナント撤去における原状回復特約について、原状回復義務の範囲に触れたうえで、例文や作成時の注意点を紹介していきます。

原状回復特約とは

原状回復特約とは、借主の原状回復の義務を特約として定めたものをいいます。民法に原状回復義務に関する規定がありますが、任意規定のため、賃貸借契約で特約による定めがあれば、特約が優先されます。

ただし、特約が有効と認められるには客観的で合理性があることのほか、原状回復義務を超える義務を負う旨を認識することや特約による義務を負担する意思を示すことといった条件があります。事業用物件は居住用物件よりも、特約の有効性が認められる条件が緩やかです。

そもそも原状回復とは

そもそも原状回復とは、賃貸借契約が終了した際に、借りている間に生じた損傷を元の状態に戻すことをいいます。ただし、原則として通常の使用や収益による通常損耗、経年変化による自然な劣化や損耗は、原状回復義務から除かれます。また、借主の責めに期することができない事由によるものも、責任を負う義務がありません。

2020年4月に施行された改正民法の第621条において借主の原状回復義務は、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定されています。

引用:e-GOV法令検索

テナント撤去における原状回復特約の内容

実際のところでは、テナントの場合は賃貸借契約で原状回復義務に関する特約を設け、借主が民法の範囲を超えて原状回復義務を負うことが一般的です。

テナントの原状回復特約には、通常損耗や経年変化による損耗も包括して借主に原状回復を求める特約や、原状回復工事の指定業者への委託を義務付ける特約などがあります。

テナントのような事業用物件では、原状回復特約で基本的に借主が原状回復義務を100%負い、借りたときの状態に戻すのが一般的となっています。

原状回復工事の範囲

テナントの原状回復工事の具体的な範囲は、賃貸借契約の特約によって異なります。入居前の状態に戻すためのすべての範囲で、自ら設置したものを取り外すほか、通常損耗や経年変化による損耗も元の状態に戻すことが特約で義務付けられているのが一般的です。

一般的な原状回復工事では、デスクや椅子などの備品の撤去、カーペットや壁紙、天井ボードの張り替え、増設した間仕切りの撤去、電話回線・LANケーブル・電気配線の撤去、造作物の撤去、看板の撤去、床・天井・窓のクリーニングなどを行います。

躯体の状態であるスケルトンで借りたケースなど、原状回復特約によってはスケルトンの状態に戻すための工事を実施します。百貨店やショッピングモールのテナントでは、最低限の内装が整った状態に原状回復を行うのが一般的です。

【一般的に原状回復工事が必要な箇所】

  • テナント(専有部分)
  • 外部の看板

テナント撤去における原状回復特約の例文

テナント撤去に関連する賃貸借契約の原状回復特約の例文をまとめました。(甲:貸主、乙:借主)

【例文】
前項の場合は、乙は甲の指定業者に委託するものとする。

【例文】
前項の場合は、株式会社○○に委託するものとする。

原状回復工事は貸主の関連会社や協力会社などの指定業者への委託を義務付けるケースが多いです。

【例文】
前項の規定に関わらず、乙が遅滞なく原状回復の処置を行わなかった場合には、甲は乙の費用負担のもとに原状回復の処置をとることができる。

借主が原状回復工事を行わなかった場合に、借主の費用負担で貸主が実施できることを取り決めていることもあります。

テナント撤去における原状回復特約作成時の注意点

民法における原状回復義務は、居住用物件とテナントなどの事業用物件では変わりません。ただし、事業用物件では事業者同士の契約となることから、貸主と借主が対等な立場という考えのもの、特約が有効と認められる範囲が広いという違いがあります。そのため、賃貸借契約書において原状回復義務に関する特約による規定がなければ、通常損耗や経年変化による損耗の修繕費用は貸主の負担となる点に注意が必要です。また、テナント撤去における原状回復特約作成時には、借主の原状回復義務の範囲を明確にすることが大切です。

さらに事業用物件では原状回復義務の特約の有効性が認められやすいとはいえ、独占禁止法上の優越的地位の濫用に当たらないようにすることも留意するべき点です。たとえば、契約の更新時に長年、入居しているテナントが不利になる原状回復義務を求める特約に変更するケースなどが該当します。

テナント撤去における原状回復特約に関するよくある質問

Q.原状回復工事期間中の家賃は誰が負担する?

A:賃貸借契約の内容によりますが、基本的に原状回復工事期間中の家賃を負担するのは借主です。契約満了日までに原状回復工事を完了して、貸主に明け渡しを行います。

Q.原状回復工事の業者は指定されている?

A:賃貸借契約書の原状回復工事特約で原状回復工事を委託する業者が指定されている場合には、原則として指定された業者に依頼します。貸主が業者を指定しているケースが一般的です。

指定された業者以外に原状回復工事を依頼すると、再工事費用を請求されたり、工事のやり直しを要求されたりするなど、トラブルに発展する恐れがあります。

Q.原状回復工事の費用はいくら?

A:原状回復工事の規模別の相場は坪単価3万円~44万円と幅があり、大規模なオフィスほど高い傾向があります。

原状回復工事費用の坪単価ベースの相場は、50坪未満の小規模オフィスは坪単価3万円~8万円、50坪以上100坪未満の中規模オフィスは坪単価7万円~11万円、100坪以上300坪未満の大規模オフィスは坪単価9万円~17万円です。さらにハイグレードビルの300坪以上の大規模オフィスは、坪単価17万円~44万円が相場で、高額な費用が必要になることが多いです。

Q.テナントの退去時はスケルトン戻しが必要?

A:「原状回復=スケルトン戻し」ではありません。テナントの退去時にスケルトン戻しが必要かどうかは、賃貸借契約の原状回復特約によります。スケルトン戻しとは借りていた専有部分を躯体の状態にすることをいいます。RC造ではコンクリートの天井や壁、床が見えていて、電気配線や換気ダクトなどの配管がむき出しになっている状態です。

賃貸借契約書の特約で、退去時にはスケルトン戻しにする取り決めがある場合には、原状回復工事でスケルトン状態にする必要があります。

まとめ

テナントは賃貸借契約書の原状回復特約によって、原状回復を行う範囲が決められていることが一般的です。原状回復を巡るトラブルを避けるためには、賃貸借契約書で原状回復の範囲を明確に示すとともに、貸主と借主の双方が内容を理解しておくことが大切です。