退去費用が払えないとどうなる?費用が高すぎるときの対処法を解説
2023年10月23日
賃貸物件から引っ越しをしたときに発生する退去費用が高すぎるなど、払えないときはどうしたらよいのでしょうか。連帯保証人を立てている場合には、連絡がいくと迷惑をかけてしまうことが考えられます。
退去費用が払えないときの流れやそもそも借主が負担する費用、退去費用が高すぎるときの対処方法などについて紹介していきます。
退去費用が払えないとどうなる?
退去費用を指定された期日までに支払わないと、貸主や管理会社から督促の連絡が入ります。請求内容に納得がいかない場合には、速やかに連絡を入れて交渉を行うべきです。期日までの支払いや一括での支払いが難しい場合にも、減額や分割、支払い期日の延期などを求めて交渉してみましょう。
また、退去の支払いを支払わずにいると、緊急連絡先や連帯保証人を立てている場合には連帯保証人に連絡がいきます。連帯保証人に請求がいくことになるため、多大な迷惑をかけてしまうことが懸念されます。
一定期日までに退去費用を支払わずにいた場合には、家賃保証会社による代位弁済が行われます。家賃保証会社が支払っても立て替えている状態のため、退去費用の支払いから逃れられるわけではありません。家賃保証会社から、退去費用に手数料や金利分の損害賠償金を上乗せした金額の支払いを求められます。
さらに借主も連帯保証人も、退去費用を支払わない場合には、借主や管理会社、あるいは家賃保証会社が代位弁済をした場合には家賃保証会社が、最終的に裁判を起こすリスクがあります。
そもそも退去費用とは?
そもそも退去費用は、賃貸物件を退去するときに発生する原状回復費用のことです。特約によってハウスクリーニング費用などが含まれることもあります。
貸主に敷金を預けている場合には、敷金から退去費用を引いた額が返金されます。敷金が退去費用を上回る場合には差額の支払いが必要です。
借主が退去時に負担する必要のあるもの
借主が退去費用として負担する原状回復費用は入居時の状態に戻すための費用ではありません。借主の故意や過失、不注意、あるいは通常の使用の仕方を超えた使い方による汚れやキズなどの損耗の修繕費用です。
また、賃貸借契約書に退去費用に関する特約による取り決めがあるケースでは、特約による取り決めがあるものは原則として借主の負担です。特約に必要性があり、負担の度合いが適正で、借主の負担の範囲が明確に決められているケースなどで、特約が有効とされます。特約として設けられることが多いのは、ハウスクリーニング費用や畳の表替え費用、襖の貼り換え費用などです。
- 借主の故意・過失による損耗
- 借主の不注意による損耗
- 通常の使い方を超えた使用による損耗
- 賃貸借契約書で特約によって取り決めのある費用
借主が退去時に負担する必要のないもの
退去時の原状回復費用については、国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』で貸主と借主のそれぞれが負担するべき費用が示されています。これによると、経年変化や通常損耗による修繕費用は貸主が負担するべきものであり、借主は支払う必要がありません。、経年変化や通常損耗による修繕費用は賃料に含まれているためです。経年変化は「建物・設備等の自然的な劣化・損耗等」、通常損耗は「賃借人の通常の使用により生ずる損耗等」と定義されています。
このほかには、グレードアップのための費用は賃料には含まれていませんが、貸主が負担するべき費用であり、借主が太鼓時に負担する必要がありません。グレードアップは「退去時に古くなった設備等を最新のものに取り替える等の建物の価値を増大させるような修繕等」と定義されています。
ただし、『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』は裁判例や取引の実務をもとにまとめられていますが、ガイドライン自体に法的な拘束力はありません。一方で、2020年4月の民法改正で、通常損耗や経年変化による損耗は借主が原状回復義務を負わないことが明確化されています。
参考:
国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
法務省|賃貸借契約に関するルールの見直し
- 時間の経過による品質の低下で生じた傷みなど経年変化による損耗
- 日常生活で通常の使用で発生した汚れやキズなどの通常損耗
- 古くなった設備などを一新するためのグレードアップ費用
退去費用の相場
退去費用の相場を知っておくと、請求されている金額に妥当性があるのか判断する材料の一つになります。
間取り | 退去費用の相場 |
---|---|
ワンルーム~1LDK | 5万円 |
2K~2LDK | 8万円 |
3DK~4LDK | 9万円 |
間取り別の退去費用の相場は、「ワンルーム~1LDK」では5万円、「2K~2LDK」では8万円、「3DK~4LDK」は9万円です。
退去費用は基本的に部屋数が多く、専有面積が広いほど高額になります。
退去費用が高くなってしまうケース
借主が負担する原状回復費用が高く、退去費用が高額になりやすいケースとしてよくあるのは、次に挙げる3つのケースです。
- 室内でペットを飼っている
- 室内でタバコを吸っている
- 目立つ損傷がある
室内でペットを飼っている
室内でペットを飼育しているケースでは、ペットによる床や壁の引っかきキズのほか、臭いもつきやすいため、退去費用が高額になりやすいです。たとえば、ペットが壁を引っかいて壁紙を破いていたら、壁一面分の壁紙の貼り替え費用の負担が必要です。ペットの臭いがとれない場合には、専門業者による消臭作業が実施されることがあります。
また、ペットの使用が禁止されている物件で、契約違反してペットを飼育しているケースでは、違約金を請求される可能性もあります。
ペット可の物件を借りて退去費用を抑えるには、床にマットを敷く、壁に剥がせるタイプのシートを貼る、空気清浄機を設置するといった対策があります。また、ペット用のトイレや床、壁などをこまめに清掃し、万が一粗相をした場合にはすぐに拭き取るなど、日常的に掃除をきちんと行っておくことも大切です。
室内でタバコを吸っている
室内でタバコを吸っているケースでは、天井や壁に黄ばみがつきやすく、臭いもしみつきやすいです。壁紙の貼り替え費用を請求されることが多いほか、消臭費用が発生することがあります。
また、最近は室内での喫煙が禁止されている物件が目立ちますが、喫煙をすると違約金を請求される可能性もある点にも注意が必要です。
室内での喫煙が禁止されていない物件で退去費用を抑えるには、タールを含まない電子タバコに切り替えるという対策が挙げられます。しかし、電子タバコでも臭いは発生するため、空気清浄機を設置するなどの対策が必要です。また、通常のタバコによる黄ばみを軽減するには壁や天井の掃除をこまめにするといった方法もありますが、高い場所まで頻繁に掃除をするのは大変です。
目立つ損傷がある
日常生活でできるようなキズや汚れは、通常損耗として借主が修繕費用を負担する必要はありませんが、目立つような損傷は借主の過失や不注意によってできることが多く、退去時に原状回復費用を請求されます。
たとえば、引っ越しや模様替えなどで家具を移動させたときに、壁にぶつけてしまったり、床にキズや凹みが生じてしまったりしたケース、あるいは壁を殴って穴を開けてしまったケースなどが挙げられます。壁に目立つ損傷がある場合には、壁一面の壁紙の貼り替えが行われるほか、下地のプラスターボードに穴が開いている場合には交換するため、退去費用が高額になりやすいです。
退去費用が高すぎると感じたときはどうしたらいい?
退去費用が高すぎると感じた場合の対処策として、次の4つの方法が挙げられます。
- 契約内容を確認する
- 貸主や管理会社に交渉する
- 消費者センターへ相談する
- 法的手段をとる
契約内容を確認する
退去費用が高く、内訳を確認したときに借主が負担する必要がないものが含まれている場合には、まずは賃貸借契約書で契約内容を確認しましょう。
経年変化や通常損耗による汚れやキズ、傷みの修繕費用、あるいはグレードアップのための費用は、原則として借主が負担するべき費用には含まれません。しかし、たとえば、ハウスクリーニング費用やエアコンのクリーニング費用や、畳の表替え費用、襖の貼り換え費用などは、特約による取り決めがある場合が少なくなく、特約の有効性が認められるケースでは借主の負担です。たとえば、「ハウスクリーニング費用は借主負担とし、費用は一律で2万円とする」といった特約が設けられているケースが該当します。
賃貸借契約書で、特約で借主の負担となっているものがあるか、確認しましょう。
貸主や管理会社に交渉する
退去費用の明細の項目に、特約がある場合を除いて、経年変化や通常損耗による修繕費用やグレードアップのための費用といった、借主が負担する必要がないものが含まれている場合は、速やかに貸主や管理会社と交渉を行います。
国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』や民法を根拠として、退去費用の明細のうち、借主が負担する必要がない項目を挙げて、矛盾点を指摘するのがポイントです。
消費者センターへ相談をする
貸主や管理会社との退去費用を巡る交渉が上手くいかない場合には、消費者センターへ相談します。
消費者センターは地方自治体が設置する機関で、無料で商品やサービスなど消費生活全般に関する相談をすることができます。退去費用を巡るトラブルも、消費者センターで相談することが可能です。専門の相談員から消費者関連の法令にもとづいた解決に向けたアドバイスを受けられるほか、貸主や管理会社との交渉のサポートが行われることもあります。
消費センターに相談するときには、賃貸借契約書や退去費用の明細書のほか、これまでのやりとりの資料や経緯をもとめたメモなどを用意しておくと、スムーズです。
法的手段をとる
消費者センターに相談しても解決に至らなかった場合には、法的手段をとる方法もあります。
民事調停は裁判官や調停委員からなる調停委員会が、当事者の間に入ってそれぞれの言い分を聞き、双方に歩みよりを促して、話し合いによる解決を目指す方法です。退去費用を巡るトラブルも民事調停の対象となります。民事調停は安価な費用で利用でき、裁判と同じ効力を持つのが特徴です。民事調停を申し立てるには、簡易裁判所で申立用紙を記入して提出し、手数料を納めます。
退去費用に関するよくある質問
Q.退去費用を払えないときは分割にできる?
退去費用は一括払いで支払いを求められるのが一般的で、貸主や管理会社との交渉次第ですが、分割払いに応じてもらえるケースは稀といわれています。
ただし、退去費用の支払い方法でクレジットカード払いを選択できる場合は、クレジットカードが後から分割払いやリボ払いへの変更に対応している場合には、分割で支払うことが可能です。ただし、賃料の支払いはクレジットカード払いに対応していても、退去費用は銀行口座への振り込みのみとされているケースもあります。
Q.生活保護で退去費用を払えない場合はどうなる?
生活保護では、原則として退去費用の支給は受けられません。退去費用は入居時の敷金で支払うべきという考え方によるものです。
ただし、敷金が支払われていないケースや支払われていても低額のケースでは、住宅維持費として支給を受けられる可能性があります。このケースに当てはまる場合も、「原状回復の特約がある」「原状回復の範囲が社会通念上やむを得ないと認められる範囲である」「故意・重過失によった壊れた部分の修繕でない」といった要件が設けられています。
生活保護を受けていて退去費用に不安がある場合には、引っ越しに関する手続きを進める前の段階で、早めに担当のケースワーカーに相談しておきましょう。
Q.退去費用に納得いかないままサインしてしまったらどうなる?
退去費用に納得がいかない状態でも、サインをしてしまうと取り消せない可能性が高いです。民事訴訟法第228条4項に「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」という規定があります。サインをすると記載されていることに納得したとみなされてしまいます。
退去費用に少しでも納得がいかない点がある場合には、安易にサインをしないようにしましょう。
Q.退去費用の踏み倒しに時効はある?
貸主が退去費用を請求できるのは、民法606条の規定により除斥期間が退去から1年間と定められています。貸主は物件の明け渡しから1年間を過ぎると、借主に対して原状回復費用として退去費用を請求することはできません。
また、物件の明け渡しから1年以内に退去費用の請求があった場合の時効は5年、もしくは10年です。ただし、貸主が裁判を起こすと時効の成立が猶予され、貸主の主張する退去費用が認められた場合には、時効は判決の確定から10年になります。裁判が確定すると、財産や給与などを差し押さえることができます。
退去費用の踏み倒しはおすすめできるものではありませんが、時効の成立については慎重な判断が必要になるため、弁護士などに相談しましょう。
まとめ
退去費用が払えないときにそのまま放置すると、連帯保証人に迷惑がかかったり、裁判を起こされたりするリスクがあります。また、国土交通省の『、『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を参考に、退去費用として請求された内容に納得できないものがある場合には、貸主や管理会社に交渉を行い、解決しない場合には消費者センターに相談するなど、速やかに行動しましょう。