大阪 京都 神戸の賃貸原状回復工事・退去立ち合い代行。マンション空室対策、原状回復工事、内装リフォーム全般、不動産会社様向けのサポートはお任せください。
コラム

原状回復特約とは?要件や例文、無効となるケースをわかりやすく解説

2023年11月24日

賃貸借契約では原状回復特約によって、借主が一般的な原状回復義務の範囲を超えて負担を行うことが定められているケースがあります。しかし、これまでの判例などから原状回復特約が有効と認められるには要件があり、無効とされるケースもあるのです。

原状回復特約とは何か、要件や例文、無効となるケースなどについて解説していきます。

原状回復特約とは

賃貸借契約における原状回復特約とは、契約で貸主と借主の原状回復の負担の割合を定めるものです。原則として貸主の負担となる部分を借主の負担とする特約が一般的です。

国土交通省による『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』は、原状回復費用の貸主と借主の負担のあり方の一般的な基準が示すものです。『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では、強行法規に反するものを除くと、契約自由の原則から特約を設けることは自由であり、借主の原状回復義務の範囲を超えた特約を設けることも可能としています。ただし、こうした特約を設ける場合に有効とされる要件が示されています。

原状回復特約の例として、「ハウスクリーニング費用を借主の負担とする」「畳の表替え費用を借主の負担とする」「襖の貼り替え費用を借主の負担とする」といった内容が挙げられます。

そもそも原状回復とは

そもそも原状回復とは、賃貸借契約の終了に伴い、借主が退去する際に入居時の状態に戻すことをいいます。原状回復に関わる費用はすべて借主の負担となるわけではなく、貸主の負担になるものもあります。

貸主の負担になるものの例借主の負担になるものの例
  • 家具や家電を置いたことによる跡や凹み
  • フローリングや畳の日照による変色
  • 壁の画鋲による穴(下地材の交換を必要としない程度)
  • 飲み物をこぼしたことでできた床のシミ
  • 手入れを怠ったことによる浴室の水垢やカビ
  • 壁のくぎ穴(下地材の交換を必要とする程度)

貸主の負担になるのは、経年劣化による損耗や通常の使い方、暮らし方による通常損耗に当たる傷や汚れ、破損などです。家具や家電を置いたことによって床が凹んだケースや、日差しによってフローリングや畳が変色したケース、ポスターなどを飾るために壁に画鋲の穴が開いたケースなどが該当します。

一方、借主の負担になるのは、故意や過失、不注意によってできた損耗です。飲み物をこぼしたできた床のシミや、掃除を怠ったことによる浴室の水垢やカビ、あるいは壁に絵をかけるためにできたくぎの穴などが挙げられます。

原状回復特約が認められる要件

『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では原状回復特約が認められる要件として、以下の4つが示されています。

  • 特約を設ける必要性がある
  • 客観的、合理的理由がある
  • 特約の内容を借主が認識している
  • 借主が特約による義務負担の意思表示をしている

特約を設ける必要性がある

『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では必要性があることの例として、家賃を周辺相場よりも安価に設定する代わりに、一般的な原状回復特約義務の範囲を超えた負担を求めるケースが挙げられています。

原状回復特約に客観的、合理的な理由が求められるのは、経年劣化や通常損耗による修繕費用は、通常、家賃に含まれているためです。

客観的、合理的理由がある

家賃を周辺相場よりも安価に設定する代わりに、一般的な原状回復特約義務の範囲を超えた負担を求めるケースという例は、原状回復特約を設ける客観的理由でもあります。また、客観的、合理的理由があることを示すには、借主が負担する費用が明示され、一般的な相場であるなど暴利的でないことも求められます。

消費者契約法第9条1項では、消費者契約で消費者が支払う損害賠償額を予定する条項で、平均的な損害額を超えるものや超えた部分は無効としています。また、消費者契約法10条では、消費者の利益を一方的に害する消費者契約の条項は無効です。そのため、賃貸借契約の原状回復特約においても、暴利的な負担となるものは無効とみなされる可能性が高く、有効とされるには一般的な相場程度の費用負担とする必要があると考えられます。

特約の内容を借主が認識している

借主が特約の内容を認識していることを示すには、賃貸借契約書に原状回復特約に関わる事項が明確に記載されていることが必要です。また、貸主側が口頭で説明を行い、借主が本来の原状回復義務の範囲を超えて負担することや、特約の内容などについて認識したうえで、契約を結んでいることも求められます。

経年変化や通常損耗に関する原状回復義務を負うのは、借主にとって予期しない負担になるためです。

借主が特約による義務負担の意思表示をしている

借主が特約による義務負担の意思表示をしていることを支える事実として、賃貸借契約の原状回復特約において、借主が負担する原状回復費用の単価などを明示しておくことが挙げられています。

これは、原状回復特約は金銭の負担を伴う特約であるためです。特約によって負担する金額が明示されていなければ、契約の内容が不明瞭なため、契約を締結していても有効性が問われる可能性があります。

原状回復特約に記載すべき内容

賃貸借契約に原状回復特約を盛り込む際に、有効とみなされるためには以下が記載しておくべき内容となります。

  • 負担する原状回復の範囲
  • 負担する原状回復の費用(暴利的ではなく相場を踏まえた妥当性のある金額)

また、一般的な原状回復の義務の範囲を超えて負担することを借主が認識するように説明を行う必要があります。

原状回復特約で用いられる例文

原状回復特約で用いられる例文を紹介します。

【例1】
明け渡し後のハウスクリーニング費用は借主負担とする。なお、費用は一律20,000円とする。
【例2】
退去時における畳の表替え費用30,000円については、借主が負担する。

原状回復特約が無効となるケース

原状回復特約が定められていても、要件を満たしていない場合には裁判などで無効とされます。借主が負担する原状回復義務の範囲が明確でないケースや、借主が負担する金額が契約時に明確になっていないケースなどが該当します。たとえば、「経年劣化や通常損耗に関わる原状回復費用は借主の負担とする」という特約では、借主の負担する範囲が明確ではありません。

『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では、「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」といった内容の特約では、借主に通常損耗に関する原状回復義務を認める特約とはいえないとする判例が示されています。

原状回復費用が無効とならないためには、一般的には借主が負担する義務のない経年劣化や通常損耗に関わる原状回復費用のうち、どの部分を負担するのか、金額はいくらなのか、特約に盛り込む必要があります。

借主にとっても原状回復特約によって負担する金額が明確になっていないケースでは、想定を上回る金額が請求される恐れがあるため、注意が必要です。

まとめ

借主は退去時に原状回復義務を負い、故意や過失、不注意などによる傷や破損、汚れなどに関する原状回復費用は借主が負担します。さらに賃貸借契約で原状回復特約が設けられている場合は、一般的な借主の負担の範囲を超えて原状回復費用を負担する必要があります。賃貸借契約を結ぶ前に、特約の有無や内容についてしっかりと確認するようにしましょう。