賃貸の原状回復工事はどこまでやる?退去時の費用の相場
2023年6月21日
賃貸物件からの退去に際して必要となる原状回復工事。借主と貸主のどちらが費用負担するかを巡って、トラブルとなるケースも少なくありません。また、物件が居住用か事業用かによっても原状回復工事の範囲や費用が変わる可能性があるため、その内容を理解しておくことが大切です。
そこで今回は原状回復工事の意義・義務・範囲・相場ほか、原状回復工事の見積もりのポイントについても解説します。
賃貸物件の原状回復工事とは
原状回復工事は、退去などに際して「部屋を入居前の状態に戻す工事」を意味します。具体的な賃貸物件の原状回復工事の例には、以下のようなものがあります。
- 壁紙の張り替え
- ハウスクリーニング
- 床材の張り替え
- 設備の撤去
なお、居住用物件と事業用物件では、契約内容などにより原状回復工事の内容も変わる可能性があるため、その点はご留意ください。以下、事業用の賃貸物件の原状回復工事の例をご紹介します。
壁紙(クロス)の張り替え
壁紙(クロス)の汚れや破損には、日焼け、結露による剥がれ、冷蔵庫後部の電気焼けなどがあります。また、店舗として使用していた場合、飲食物などの匂いや油汚れ、タバコのヤニ汚れによる変色なども考えられます。
これらの汚れ・破損に対しては壁紙(クロス)の張り替えが必要です。張り替えの範囲は汚れ・破損の範囲や程度によっても変わります。
なお、ネジ・釘で壁に穴を開け、 下地にもダメージが及ぶ場合、下地ボードの交換も必要となり、原状回復費用も高額となります。
ハウスクリーニング
事業に際しては、様々な汚れや臭いが発生するケースがあります。
特に、飲食店やペットショップ、ペットカフェなどを運営していた場合には、排気ダクトがひどく汚れていたり、独特な臭いが残る可能性も高いでしょう。
このような汚れや臭いに対してはハウスクリーニングを依頼することとなりますが、汚れや臭いがひどい場合には、特殊清掃会社への依頼も検討する必要があります。
床材の張り替え
床材の汚れや破損には、物を落下したことによる傷、インテリア・家具、事業設備を置いて生じたへこみなどが考えられます。また、雨漏りが原因で腐食やシミが発生するケースもあります。
これらの汚れ・破損に対しては床材の修繕が必要です。床材の修繕は、汚れや破損のある床材を撤去して新しい床材に張り替える方法ほか、既存の床材の上に新しい床材を張る「重ね張り」と呼ばれる工法もあります。
設備の撤去
事業用賃貸物件の場合、各事業に必要な設備(デスク・コピー機・調理器具など)を複数設置しているケースもあることでしょう。
原状回復に際しては、 これらの設備を全て撤去しなければなりません。
なお、テナント・店舗の原状回復では、カーペットや壁紙を含む内装設備を全て取り払い、建物の構造だけを残した「スケルトン渡し(スケルトン戻し)」を求められるケースもあります。その際は、 スケルトン工事が必要となります。
賃貸物件の原状回復工事の義務
賃貸物件の原状回復義務については「借主に落ち度がない損傷については、原状回復義務はない」との旨が改正民法621条に記載されています。
なお「借主に落ち度がない損傷」については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 」が参考となります。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 」では、原状回復の定義を「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」としています。
つまり、経年劣化など通常使用による損傷は借主に落ち度がなく、原状回復工事の義務はありません。
ただし「落ち度がない損傷についても借主が原状回復工事を実施する」といった内容の特約が交わされていた場合は、原状回復工事の実施義務は借主にあります。
賃貸物件の原状回復工事の範囲
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 」には、原状回復工事の範囲が詳細に記載されています。 以下、借主・貸主それぞれの原状回復工事の範囲例です。
【貸主の費用負担で原状回復工事すべき範囲】
- 家具設置による床・カーペットのへこみ
- フローリングの色落ち
- テレビや冷蔵庫の背面の電気焼け
- エアコン設置によって開いた壁の穴や跡
【借主の費用負担で原状回復工事すべき範囲】
- クーラーの水漏れを放置して生じた壁の腐食
- メンテナンスや掃除をしないために生じた水回りの水垢やカビ
- メンテナンス不足が原因のキッチンの油汚れ
- ペットが原因の匂いや傷
- タバコによるヤニや臭い
ただし、事業用の賃貸物件の多くでは特約が設けられています。つまり、借主側がほぼ全ての原状回復義務を負っているケースがほとんどです。
このため、居住用物件では原状回復が不要な部分も、事業用の物件では原状回復工事が必要であると考えられます。
しかしながら、住居と事務所を兼ねた物件については、居住用物件と同範囲の原状回復義務で済むケースもあります。
賃貸の原状回復工事費用の相場
事業用の賃貸物件の原状回復費用の相場は以下の通りです。
- オフィスの原状回復(中規模):坪単価4〜8万円
- 店舗の原状回復(30坪未満):坪単価4~6万円
原状回復費用は、物件が広くなるほど、それに比例して高額になります。
また、壁紙の張替え・ハウスクリーニング・床材の張り替え・設備の撤去の有無や、その内容によっても、費用は変わってきます。
原状回復工事の見積もりのポイント
原状回復工事の見積もりをもらったら、以下のポイントをきちんとチェックしておきましょう。
- 相場を把握しておく
- 原状回復の範囲を確認する
- 余分な工事が含まれていないかチェック
相場を把握しておく
原状回復工事の見積もりを正確に評価するためには、相場を把握しておくことが重要です。
具体的には、複数の業者に見積もりを依頼し、相場とどの程度一致しているかを比較することも有効です。
業者によって価格や提供されるサービスには差はありますが、複数の見積もりと比較することで、ある程度の相場が把握できます。
このように相場を把握しておくと、工事費用の見直し交渉の材料となるほか、不当に高い工事見積もりを提示されてもスムーズな対応が期待できるでしょう。
原状回復の範囲を確認する
原状回復工事の見積もりでは、貸主・借主それぞれの「現状回復の範囲」を具体的に確認することが重要です。
契約書や賃貸借契約書、そして「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 」などを参考に、適切な工事範囲に対して見積もりを出してもらいましょう。
余分な工事が含まれていないかチェック
見積もりを受ける際には、以下のような余分な工事が含まれていないか、チェックを忘れないようにしてください。
- 共有部分の工事
- 原状回復の範囲を超えたグレードアップ
- 居住用賃貸における、経年劣化・通常損耗の原状回復工事 など
業者が不必要な工事を含めて見積もりを提出するケースもゼロではないと考えられるため、契約内容と照らし合わせながら見積もりを検討しましょう。不明点・疑問点があれば、業者やオーナーに確認することも大切です。
まとめ
賃貸物件の原状回復工事では、必要に応じて壁紙(クロス)の張り替え・ハウスクリーニング・床材の張り替え・設備の撤去などが実施されます。
原状回復工事の範囲は契約書の内容で決まりますが、 居住用物件と比較して、事業用物件の方が借主の負担が大きくなることが一般的です。
原状回復工事の見積もりをもらった際は、原状回復の範囲を確認し、余分な工事が含まれていないかチェックしましょう。
なお、複数業者から見積もりを取るなどして、原状回復工事の相場を把握しておくと、貸主側と交渉する際に役立ちます。
(*本記事は2023年6月中旬時点の情報を基に作成されました)