原状回復工事のA工事・B工事・C工事とは?違いや注意点も解説
2023年7月25日
賃貸物件の退去に際して必要となる原状回復工事。実は、工事の箇所や内容に応じて3種類(A工事・B工事・C工事)に区分されていることをご存知ですか。
今回は、賃貸物件を利用する方が理解しておきたい原状回復工事の区分について、詳しく解説。A工事・B工事・C工事それぞれの詳細や具体的な工事内容ほか、業者の選び方、原状回復工事の注意点についてもご紹介します。
原状回復とは何か
原状回復とは、賃貸した部屋・店舗を、契約時の状態に戻すことです。
居住用賃貸物件は、経年劣化など通常使用による損耗を借主が原状回復する必要はありません。
一方、 店舗・商業施設などの商用物件については、通常使用による損耗も借主が原状回復しなければならないケースが多いです。
A工事・B工事・C工事とはなにか
原状回復工事の内容は、建物の構造や契約内容によって多岐にわたります。 そんな原状回復工事は、主に以下3つに区分されています。
- A工事
- B工事
- C工事
ここからは、それぞれの工事内容について詳しく見ていきましょう。
A工事:建物そのものを扱う工事
A工事は、建物のトータルな資産価値をキープする目的で、基礎・ 骨組み・ 共用部など、建物の躯体(くたい)や共有部分に対して実施される原状回復工事です。「甲工事」とも呼ばれます。
業者の選定・発注・支払いを行うのは全てオーナーとなるため、借主にはあまり関係のない工事ということができるでしょう。
B工事:借主により増設・移設した部分の工事
B工事は、建物に影響を及ぼす設備の増設・移設を、借主の希望で実施する原状回復工事です。「乙工事」とも呼ばれます。
A工事の対象が共有部分であるのに対して、B工事の対象は専有部分となります。
支払いについては貸主負担となりますが、 建物の構造・安全に関係する工事となることから、業者の選定・発注を行うのはオーナーとなります。
C工事:借主の希望により行う工事
C工事は、B工事と同じく借主の希望で、専有部分に実施される原状回復工事です。「丙工事」とも呼ばれます。
ただし、B工事とは異なり「建物全体に影響を及ぼさない設備」がC工事の対象となります。
C工事の実施箇所は借主に所有権があるため、業者の選定・発注・支払いを行うのは全て借主となります。
A工事・B工事・C工事の原状回復の具体的な例
ここからは、A工事・B工事・C工事で実施される、具体的な原状回復工事の具体例をチェックしていきましょう。
A工事の例
A工事で実施される原状回復工事の箇所は、以下の通りです。
- ビルの外壁や外装
- 配管工事
- 屋上
- 通路
- 階段
- ロビー
- 共用のトイレ
- エレベーター
- 消防設備 など
B工事の例
B工事で実施される原状回復工事の具体例は、以下の通りです。
- テナントの専有部分の天井や壁
- 空調施設
- 照明器具
- 分水設備
- エアコンの設置
- 分電盤などの電気容量に関わる設備の増設
- 消防設備の増設 など
- エレベーター
- 消防設備 など
C工事の例
C工事で実施される原状回復工事の具体例は、以下の通りです。
- 内装の新調
- 壁紙のクロスや床・タイル・カーペットの張替え
- パーテーションの増築
- カウンターや土間といった造作の追加
- 什器の設置
- インターネット配線の工事
- 電話線の工事
- 各部屋の案内や会社名の設置
- 建具の取り付け など
原状回復工事の業者の選び方とは
原状回復工事の業者の選び方は「オーナー負担の工事(A工事・B工事)」と「借主負担の工事(C工事)」で異なります。
ここでは、上記それぞれについて最適な、原状回復工事の業者の選び方をチェックします。
A工事・B工事:ゼネコンや建築全般が得意な業者
オーナー負担のA工事・B工事は、いずれも建物の構造に関する工事となり、建物のトータルな管理が必要となるため、ゼネコンもしくは 建築全般が得意な業者を選ぶと良いでしょう。
ただし、給排水衛生・電気・空調などに関わる設備を扱う場合は、専門業者が担当するケースが多いです。
C工事:テナントが普段から依頼をしている業者
借主負担のC工事は、テナント(借主)が普段から依頼をしている、好みの業者・付き合いのある業者などで問題ありません。
ただし、高層ビル・ショッピングモールなどでは、工事の管理の観点から、業者が指定されているケースがあります。 この場合は好みの業者・付き合いのある業者に依頼することはできません。
C工事における指定業者の有無については、 契約の段階でしっかりと確認しておきましょう。
原状回復工事には工事区分の早見表が作成される
原状回復工事では「工事の発注者は誰か」「費用負担をするのは誰か」などを巡ってトラブルになりやすいです。
工事区分の早見表は、このようなトラブル防止に役立ちます。
ここからは工事区分の早見表について、その必要性も含めて理解していきましょう。
原状回復工事の工事区分の早見表とは
原状回復工事の工事区分の早見表とは、以下項目について、オーナーと借主のどちらが担うかを、A工事・B工事・C工事ごとにまとめた一覧表です。
- 業者選び
- 発注
- 費用負担
また、工事区分の早見表では、各工事の内容や範囲についても記載されています。
工事区分の早見表は、賃貸借契約書に掲載されていますが、物件・契約ごとに内容が異なるため、契約時に必ずチェックしておきましょう。
工事区分の早見表はなぜ必要なのか
原状回復工事の工事区分の早見表が必要となるのは「原状回復工事におけるトラブルを防ぐため」です。
工事区分における責任の所在や、工事の範囲・内容が明確でないと、スムーズな原状回復工事の妨げとなる恐れがあります。
工事区分の早見表では、業者選び・発注・費用負担を実施するのは誰かが明記され、原状回復工事における責任の所在が明確になっているため、円滑な話し合い・解決が期待できます。
原状回復工事の注意点とは
原状回復工事の工事区分の早見表は、トラブル防止に役立ちますが、 原状回復工事ではどのようなトラブルが起こり得るのでしょうか。
最後に、原状回復工事における注意点について見ていきましょう。
B工事・C工事にオーナーが負担する工事内容が含まれている可能性がある
B工事・C工事にオーナーが負担する工事内容(A工事)が含まれていると、その分見積もりが高額となるため注意が必要です。
B工事はオーナーが発注するので、出された見積もりの項目を細やかに確認します。A工事が見積もりに含まれていた場合は、その項目を除いた上で、改めて 見積もりを出してもらいましょう。
C工事は借主が発注するので、発注時に不要な工事が含まれていないか、よく確認してから依頼するようにしてください。心配な場合は、依頼前に業者や専門家にチェックしてもらうと良いでしょう。
B工事では借主の想定以上の金額が提示されるケースがある
B工事は、業者の選定・発注がオーナー、 費用負担が借主であるため、 原状回復費用のトラブルリスクが高い区分ということができるでしょう。
オーナーが契約締結すると、相談・交渉・解約が難しくなるため、見積もりが出た段階で借主側も確認できるようにしておいてください。
その上で、指定業者の変更などを、オーナーと交渉していきましょう。
原状回復を行う区分に誤りがないか確認をする
責任区分を図面で明確にしておかないと、誰がどの部分を工事するのか揉める原因になる
区分によっては施工方法が指定されるケースもあるため、注意する
「例えば、本来A工事であるはずの共用廊下の床や壁部分の工事が、B工事として見積もりに含まれているなどの場合もあり得ます。こうしたときは、どういった理由でそうなっているのか、しっかり確認しておくべきでしょう。」
原状回復工事に際しては、工事区分と責任区分の2つに誤りがないか確認します。
複数の店舗が入る商業施設などでは、店舗ごとに工事区分が異なる可能性があります。 例えば、契約によってはオーナー側がB工事・C工事の費用を一部負担するといったケースも考えられます。
責任区分は、複数の業者が入る場合に明確にする必要があります。具体的には、誰がどの部分を工事するのか 明確にするために、きちんと図面にしておきましょう。
まとめ
原状回復工事は、建物そのものを扱う「A工事」、建物に影響を及ぼす専有部分に対する「B工事」、建物に影響を及ぼさない設備に対する「C工事」の3つに区分されています。
原状回復工事の区分については、早見表が作成されることも多いです。早見表の作成によって「誰が業者を選ぶか/誰が発注するか/誰が費用負担するか」が明確になるため、トラブルの防止や円滑な解決に役立ちます。
なお、A工事・B工事は、建物の安全性に関わるため、ゼネコンや建築全般が得意な業者へ依頼すると良いでしょう。
一方、C工事はニーズを汲み取ることや好みのデザインを形にすることが求められるため、テナントが普段から依頼をしている業者への依頼が適しています。
原状回復工事に際しては、早見表などを参考に、オーナーが負担すべき工事が含まれていないか(間違った区分の工事費用が請求されていないか)などについても確認するようにしてください。