原状回復とはいったい何?費用の相場やトラブル回避方法を紹介
2022年12月27日

賃貸物件において、退居が発生するたびに必ず行うのが「原状回復」です。原状回復については、賃借人と賃貸人との間で認識の相違が起こりやすく、トラブルに発展しやすい内容でもあります。トラブルを回避するためには、原状回復について賃貸人自身がよく理解し、賃借人に具体的に説明しておくことが大切です。この記事では賃貸物件の原状回復について、定義や修繕費用の負担の範囲、トラブルを避ける方法などを紹介します。
原状回復とはいったい何?
原状回復とは
原状とは「もとの状態」という意味の言葉です。つまり「賃貸借契約した当初の状態」のことを示します。賃貸物件における「原状回復」とは、賃貸借契約が終了する際に、退去する賃借人(借主)が、借りた部屋を「借りた時点の状態」に戻すことです。
原状回復と同じ読みの言葉に「現状回復」がありますが、現状は「現在の状態」なので、意味が異なります。「現状回復」という表現は、例えば被災で建物や住宅設備が損傷を受けたときなどに、被災前の状態に戻す場合に使われる言葉です。
原状復帰との違いは?
原状回復と似ている言葉に「原状復帰」があります。原状復帰も「もとの状態に復帰すること」を示す言葉なので、意味合いとしては原状回復と同じです。しかし賃貸借契約書や法律なども含め、一般的には原状回復という言葉が多く用いられます。
原状復帰は、もとの状態に戻すことよりも「もとの状態に戻すための工事などの行為」を示すときに、建設業界でよく使われる言葉です。オフィスや店舗などで使用していた賃貸物件を原状回復する際は、壁紙や床の張り替え、室内のクリーニング、修繕など、大がかりな原状復帰工事が発生する場合が多くなります。
原状回復の範囲は?

建物の賃貸借において賃借人と賃貸人の間でよくトラブルになるのが、原状回復費用に関する内容です。主に争論になる「原状回復の範囲」や「原状回復費用の負担」について、最新の民法や国土交通省の示すガイドラインをもとに解説します。
入居者の原状回復義務
民法では、賃借人に対して退去時の原状回復義務を定めています。原状回復の範囲に関して参考になるのは、民法と国土交通省の示す「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。これらによると、原状回復の範囲は以下と理解できます。
- 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損
- 通常の使用によって生じた賃借物の損耗や経年変化は除く
賃貸物件の経年変化による自然損耗や劣化に対しての修繕費用は、賃料に含まれるものとされ、賃借人が負担する原状回復費用には含まれません。
もともと民法には、原状回復義務についてあいまいな表現しかされておらず、多くのトラブルや裁判のもとになっていました。そこで2004年に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発行し、原状回復義務について上記の基準を示したのです。その後2020年の民法改正により、民法もガイドラインの考え方に沿う形となりました。
出典:
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
賃貸人が修繕費用を負担するケース
賃貸人が負担する原状回復費用の範囲は、主に経年劣化や通常の使用での損耗に対する修繕です。具体的に紹介します。
建物の構造上劣化したもの
建物の構造上、経年により劣化したものは賃貸人の負担です。例えば以下のようなものがあります。
- 自然現象によるフローリングや畳、壁の色落ちや日焼け
- 経年による網入りガラスの割れ
- 建物の経年劣化による雨漏り
日常生活で発生した損耗
人が通常の生活をしていて発生する損耗については、賃貸人の負担です。以下に例を挙げます。
- 家具を設置した床のへこみ、設置跡
- カレンダーなどの設置により空いた画びょうやピンの穴(下地ボードの張り替えがいらない程度の穴)
- テレビなど家電の裏の壁に発生した電気ヤケ(黒いシミ)
- ポスターなどを貼っていたことによる壁紙の変色
- 賃借人所有のエアコンを設置した際のビス穴
- 設備機器の寿命による故障
次の入居者確保のための原状回復
特に損耗がなく、以下のような次の入居者のために行う準備にかかる費用については、賃貸人負担です。
- 賃借人が紛失していない場合の鍵の交換
- 網戸や畳などの交換
- 賃借人により通常の清掃が行われていた場合のハウスクリーニング
- エアコンの洗浄
- フローリングのワックスがけ
- 室内の消毒
賃借人に修繕費用が発生するケース
原状回復費用として、賃借人の負担となる場合の具体例を紹介します。賃貸借契約書の際に賃借人と具体的に合意しておくことで、入居中に気を付けて生活してもらえるなどのメリットがあるでし
用法違反による損耗
賃貸借契約の際に合意した用法の違反によって生じた損耗に対しては、賃借人の費用負担となります。例えば以下のような場合が該当します。
- ペットによる柱や壁のキズ、臭いの付着(共同住宅のペット飼育は一般的ではなく、賃借人の負担となる場合が多い。ペット飼育が禁止されている賃貸物件の場合は、用法違反に該当)
- 用法違反による設備の毀損
不注意による損耗
賃借人が注意を怠ったことで生じた損耗に対する修繕費用は、賃借人の過失や善管注意義務違反として、賃借人の負担です。以下に例を挙げます。
- 引っ越し作業などで生じたキズ
- 賃借人の不注意で雨が吹き込んだことによるフローリングの色落ち
- 鍵の紛失や破損による交換
手入れを怠って発生した損耗
日常の清掃や手入れを怠ったことで生じた損耗に対しては、賃借人の費用負担となります。例えば以下のような場合が該当します。
- 飲み物をこぼしたことによる床やカーペットのシミ
- 冷蔵庫下のサビを放置したことによる床の汚損
- 使用後の手入れ不足による台所のススや油汚れ
- 結露を拭き取らなかったことで拡大した壁のカビやシミ
- 戸建て賃貸住宅で草取りを適切に行っていなかった場合の庭の雑草
- 日常の清掃を怠った結果による風呂やトイレの水あか、カビ
- 日常の不適切な使用や管理による設備の毀損
通常使用で発生したとは言い難い損耗
通常の使用による損耗を超えていると判断できる場合は、修繕費用は賃借人の負担になります。以下に例を挙げます。
- 落書きなどの故意による壁の毀損
- タバコによる壁紙の変色や臭いの付着(喫煙が禁じられている賃貸物件の場合は、用法違反に該当)
- 壁などのビス穴で下地ボードの張り替えが必要なもの(重量物をかけるために開けた場合など)
- 設備にある照明器具用コンセントを使わず、天井に直接付けた場合の照明器具の跡
原状回復費用の相場は?

原状回復についてトラブルにならないためには、費用の相場をあらかじめ認識しておくことが大切です。ハウスクリーニングや壁の張り替えなどの相場についてご紹介します。
ハウスクリーニング費用の相場
間取りごとのハウスクリーニング費用の目安は以下です。
間取り | ハウスクリーニング費用目安 |
ワンルーム、1K | 15,000~30,000円 |
1DK、1LDK | 25,000~40,000円 |
2DK、2LDK | 30,000~80,000円 |
3DK、3LDK | 40,000~100,000円 |
4DK、4LDK | 50,000~130,000円 |
同じ間取りでも、部屋が広くなるほどハウスクリーニングの費用は高くなります。また基本的には、入居中よりも空室時のハウスクリーニングのほうが安くなる場合が多いでしょう。担当する清掃業者や依頼する時期、汚れの程度によっても費用は異なります。
壁や天井の張り替え・取り換え
壁や天井のクロス張り替えにかかる費用は、壁紙の種類によりますが、1平米あたり800~1,500円程度が目安でしょう。6畳の部屋全体の壁紙を張り替える場合の費用は、40,000~65,000円程度になります。基本的には壁だけでの張り替えで済みますが、タバコのヤニなどで汚損している場合は、天井の張り替えも必要です。
また、壁紙だけでなく内部の石こうボードまで破損していた場合は、ボードの取り換え費用として、さらに20平米あたり30,000~60,000円程度かかるのが相場です。なお、トイレの壁紙を張り替える場合は、空間が狭いため作業が困難で、費用が高くなる傾向があります。
床材の張り替え・クリーニング
家具などで損傷した部分だけ床材を張り替える場合は、10,000円前後が費用の相場です。張り替える部分の大きさや、床材の種類によっても費用は異なります。フローリング全面を張り替える場合は、以下の価格が目安です。
面積 | 床材張り替え費用の目安 |
6畳 | 100,000~180,000円 |
8畳 | 100,000~230,000円 |
10畳 | 140,000~280,000円 |
12畳 | 150,000~250,000円 |
水回りの汚れ・水あか・カビのクリーニング
キッチンや浴室などの水回りは、部屋の中でも特に汚れやすい場所です。水回りだけ重点的にクリーニングしてもらう場合の費用相場を紹介します。
場所 | クリーニング費用相場 |
キッチン(コンロ、シンクなど) | 12,000円~25,000円 |
キッチン(レンジフード・換気扇) | 13,000~16,000円 |
浴室 | 12,000円~18,000円 |
トイレ | 5,000~10,000円 |
洗面所 | 7,500円~10,000円 |
浴室とトイレなど、セットでクリーニングを依頼すると割引になる場合も多いでしょう。水回りは3,000~4,000円程度のオプションで、「汚れ防止コート」や「除菌クリーニング」などがある場合もあります。長く清潔を保つためには効果的です。
原状回復のトラブルを避ける方法

原状回復に関して賃借人とのトラブルを防ぐためには、原状回復の内容について賃借人に納得してもらうことが重要です。賃貸借契約を結ぶときには、以下のことを意識すると賃借人の苦情を避けやすいでしょう。
記録を残しておく
原状回復の範囲をめぐるトラブルでは、入居時の物件の確認が不十分なことが原因の一つに挙げられます。記憶だけでは双方が納得することは困難であるため、損耗の時期や箇所が共通認識できるよう、記録をしっかり残しておくことが重要です。記録の残し方として、以下の方法をおすすめします。
- 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」で示される「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」を、入居時の退去時の確認に活用する。
- 記録の際は、写真を撮ったり平面図を使用したりして、ビジュアル的に分かりやすいよう工夫する。
- 記録した用紙は、賃借人と賃貸人でそれぞれ1部ずつ保管する。
客観的に判断しやすい記録があれば、仮にトラブルになったとしても解決に役立つでしょう。
契約書に特約を追記する
賃貸借契約においては、法規に違反しないものであれば、自由に特約を設けることができます。特約を追記し、契約時に合意していれば、賃借人に一般的な原状回復義務を超えた修繕費用を負担してもらうことが可能です。特約を設けることで、賃貸人は修繕費用を抑えられるメリットがありますが、賃借人が不満を持つ可能性もあります。退去時のトラブルを防ぐためには以下のことに留意しましょう。
- 初めの契約時に必ず特約について具体的に説明し、賃借人に十分な確認を得たうえで、合意を取る。
- 特約について説明したことを記録に残しておく。
- 特約事項を明記した書類を渡しておく。
負担が発生する可能性があることを伝える
賃貸物件に関しては、設備の耐用年数を考慮して、年数が経つほど賃借人の修繕費用負担は軽減することが一般的です。例えば壁紙やカーペット、エアコンの耐用年数は6年、トイレや洗面台の給排水設備の耐用年数は15年となっています。しかし耐用年数を超えているからといって、賃借人の修繕費用負担がゼロになるとは限りません。
耐用年数を超えていても、賃貸物件の設備として引き続き使用が可能な場合に、賃借人に責任が発生する損耗・汚損があった場合には、賃借人に修繕費用負担が発生する場合があります。賃借人がそのことを理解していなかった場合は、耐用年数を理由に納得してもらえない可能性があるでしょう。そのため契約時に、あらかじめ「耐用年数を超えても、賃借人に修繕費用の負担が発生する場合がある」ということを伝えておくことが大切です。
敷金をやや高めに設定する
敷金は、賃借人の賃料滞納や過失による設備の破損などがあった場合に、その損害を担保するものとして、賃貸人が賃借人からあらかじめ預かっている金銭のことです。保証金などの名目であっても、同じ目的のものであれば敷金といえます。原状回復費用の相場を踏まえて、契約時の敷金を高めに設定しておくことも、退去時のトラブルを防ぐために有効です。
退去時に賃借人に対し追加で修繕費用を請求しなくて済むため、貸借人が不満を持ちにくく、トラブルになる可能性が低くなるでしょう。ただし敷金は、賃貸借契約が終了して賃貸物件の返還がされた時点で、賃貸人に対する賃借人の債務を差し引いた分は、賃借人へ返還する義務があります。「敷金はある程度戻ってくる」と考えている賃借人も少なくないため、原状回復にかかった修繕費用の明細は賃借人へ開示することが、トラブルを避けるコツです。
まとめ

原状回復は、賃貸物件において避けては通れない作業です。民法改正や国土交通省のガイドラインによって原状回復義務の基準が明確になったとはいえ、未だ多くのトラブルが発生しており、裁判になる事例もあります。トラブルの原因は多くの場合、賃借人と賃貸人の間で原状回復の範囲について認識の相違があることや、入居時・退去時の物件の状態の認識に相違があることです。これらを避けるために、賃貸借契約を結ぶ際には、原状回復義務とその範囲について、具体的に賃借人と合意するように留意しましょう。