店舗の原状回復範囲と費用の相場|どこまでやるべき?トラブルと対策方法
2023年2月1日
賃貸物件を店舗として利用する際、退去時の原状回復についてきちんと把握しないまま契約や工事を進めてしまうと、思わぬトラブルにつながることもあります。本記事では、物件の店舗利用を考えている方に向けて、原状回復について押さえておきたいポイントや注意点について解説します。
店舗の原状回復の特徴
店舗用の物件は、原状回復の範囲と費用が大きくなることが特徴です。
店舗として利用する場合、日常的に多くの人が出入りすることになります。また、荷物の搬入機会なども多くなるでしょう。そのぶん、人が生活するだけの居住用物件と比べ、物件の傷みや劣化の可能性が高まります。
店舗用物件では、貸主側は「特約」として借主が原状回復を負担する旨を契約書に明記しておくことが一般的です。
そのため、賃借人は退去時に設備や内装の撤去工事を行い、入居時と同じ状態に原状回復する必要があります。居住用物件と比べて物件の損耗や損傷の度合いが高い店舗用物件では、原状回復にかかる負担も大きくなりがちです。
居抜き物件は原状回復の例外
原状回復の例外に、“居抜き物件” があります。居抜きとは、以前の店舗の設備や什器が残ったままの状態の物件を賃貸することです。
一般的な店舗用物件の賃貸借契約の場合、賃借人は退去時に入居時と同じ状態に物件を原状回復する必要があります。ただし、居抜き物件から退去するときは内装造作や設備をそのまま後継テナントへ承継するケースが多く、その場合は退去時に原状回復する必要はありません。
居抜き物件であっても、店舗の使用状況によっては損傷が激しい部分の修繕工事やクリーニングなどを求められる可能性はあります。とはいえ原状回復と比べれば、工事にかかる費用負担を大きく削減することができるでしょう。
店舗の退去時の原状回復範囲
店舗の退去時に必要となる原状回復工事の具体例は、次のとおりです。
- 内装造作の解体・撤去
- 床・壁の張替えや塗装
- 天井の塗装
- 照明の位置戻しや管球交換
- エアコンクリーニング
- 配線撤去
- 水回りのクリーニング など
居住用物件の場合、日常生活で生じた損耗の回復については貸主負担となります。たとえば、日光による壁紙の色あせや、長年の使用による押入れの引き出しの歪みなどは、通常損耗や経年劣化とみなされるため借主の負担にはなりません。
一方、店舗用物件の場合は通常損耗や経年劣化に関係なく、退去時の原状回復の費用はすべて借主負担が基本です。
店舗の原状回復費用
通常損耗や経年劣化も含むすべての原状回復が必要となる店舗用物件では、工事費用が高額になる傾向にあります。ビルオーナーの指定業者で原状回復工事を行う契約となっていることも、工事費用が高額になる理由のひとつに挙げられます。
小規模な物件では坪単価が安くなり、大規模な物件や大手ディベロッパー物件では高額になるという傾向はあるものの、原状回復工事の費用相場は坪3万円~30万円と幅広いです。
特に飲食店として利用していた場合、給排水設備工事や厨房機器の処分、空調機器や排水設備のクリーニング、汚れがひどい場合はダクト交換なども必要となるため、オフィス利用よりも費用が高額になりがちです。居抜き物件においても、契約内容によってはスケルトンに戻さなければならないケースもあります。
費用については、「原状回復の見積もり相場と見積書のチェックポイント|住居用・事業用で差はあるの?」「原状回復費用が高すぎるときの原因と対処法」の記事もご参照ください。
店舗の原状回復で起こりやすいトラブルと対策
店舗の原状回復においては、特に次の2つの点でトラブルが起こりやすくなります。
- 原状回復義務の範囲
- 原状回復費用の金額
よくあるトラブルと、その対策方法について見ていきましょう。
原状回復義務の範囲
原状回復義務の範囲は、物件によって異なるため、トラブルにつながることがあります。
賃貸借契約書や特約に原状回復義務の範囲が明記されていない場合、特にトラブルが起こりやすいので注意が必要です。また、内装や厨房などが残った状態の居抜き物件を借り、「退去時は借りたときの状態に戻せばよい」と考えていたところ、退去時になって原状回復=スケルトン状態に戻すという契約書の特約が付いていたことがわかりトラブルになった、という事例もあります。
退去時の思わぬトラブルを避けるためにも、個々の契約内容は事前にしっかりと確認しておくことが重要です。
原状回復費用の金額
相場より高い費用を請求され、賃借人と業者でトラブルになるケースもあります。
特に工事見積書に詳細が明記されていないと、トラブルが起こりやすくなります。また、退去日までに工事が終わらなければ、遅延損害金などを請求されることもあるため注意が必要です。
退去が決まった場合は、できる限り早めに原状回復工事の見積もりを依頼し、以下のポイントを確認してください。
- 余分な工事が入っていないか
- 施工範囲は正しいか
- 価格は適切か
- 不明な点はないか
不明点がある場合は、早めに先方に確認し、回答をもらっておきましょう。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
原状回復に関するトラブルについては、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を作成しています。もともと居住用の賃貸借を想定して一般的な基準を設けたものですが、店舗用の賃貸借においても、このガイドラインの内容が適用されることがあります。
店舗用の賃貸借でこのガイドラインが妥当するとみなされるケースは、次のとおりです。
- 当事者間でガイドラインと異なる内容の合意をしていないとき
- 当事者間でガイドラインを排除する趣旨の合意を行っていないとき
ガイドラインに関する詳細は、「原状回復ガイドラインとは|事業用物件にも適用される?」をご参照ください。
まとめ
人が生活するだけの居住用物件と比べて物件が劣化・傷みやすいうえ、通常損耗や経年劣化も含むすべての原状回復が必要となる店舗用物件では、原状回復にかかる負担も大きくなりがちです。また、範囲や金額は物件によるため、退去時になってトラブルになることもあります。
そのため、契約前に個々の契約内容をしっかりと把握しておくことが大切です。また、見積もりは早めに取得し、内容をチェックしましょう。