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原状回復

原状回復工事のガイドラインとは|国土交通省のガイドラインの内容を紹介

2023年2月1日

賃貸物件から退去する際に、トラブルになるケースも少なくない現状回復工事。実は、トラブルの防止・円滑な解決を目的として、国土交通省より「原状回復についてのガイドライン」が提供されていることをご存知ですか。

そこで今回は、現状回復工事のガイドラインについて分かりやすく解説。 具体的な内容ほか、ガイドラインが事業用物件に適用されるかについても解説しています。

原状回復工事のガイドラインとは

国土交通省は、 賃貸物件における原状回復工事のガイドラインとして「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を1998年に発表しました。

その内容を確認する前に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の概要から確認していきましょう。

民間の居住用賃貸を想定

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、賃貸物件から退去する際に生じることがある原状回復についてのトラブルを防止する目的で作成されました。

なお、国土交通省のホームページでは、本ガイドラインについて「民間の居住用賃貸における契約締結時などの使用を想定している」との旨を明記されています。

ただし、後述するように「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が事業用物件に適用された判例もため、事業用物件の借主も1度は目を通しておくべきと言えるでしょう。

法的効力はない

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、あくまでもトラブル回避のための指針を示すもので、法的な効力(強制力)はありません。

ただし、ガイドラインは、 国民生活センターなどに寄せられた相談事例やこれまでの判例が反映された内容となっているため、貸主との話し合い・交渉においても有用な参考指針であるということができます。

平成23年に再改訂版を公表

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は1998年に発表され、2004年に改定されました。

そして、2011年(平成23年) には「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 」が発表されましたが、 主な改定ポイントは以下の通りです。

  • Q&Aの追加
  • 裁判事例の追加
  • 別表等(トラブルの未然防止に関する事項)の追加
  • 残存価値割合の変更

2020年4月1日から民法ルールも変更

2017年に一部民法が改正され、2020年4月より施行されました。

これにより「経年劣化・通常使用による変化・ 借主の責任ではない損傷などについては、借主に原状回復義務はない」(第六百二十一条)との旨が明記されました。

実はこのような内容は、東京都が設けた「賃貸住宅紛争防止条例」ですでに示されていましたが、あくまでも東京都内に限定されるルール(東京ルール)だったため、トラブルの根本的な解決に至っていなかった側面があるのです。

2020年の改正民法の施行に伴い、原状回復における義務が全国共通で明確に示されたことは、大きな前進ということができるでしょう。

原状回復ガイドラインの内容

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、原状回復義務の考え方や賃借人の賃借人の負担対象範囲ほか、トラブル解決に関連する制度や判例の動向などが掲載されています。

ここではガイドラインの中の「各設備の耐用年数」「賃借人負担割合表」について詳しく見ていきましょう。

各設備の耐用年数

設備の消耗には、時間経過による自然な消耗(経年劣化)なども含まれるため、通常は借主が全ての原状回復義務を負うわけではありません。つまり、各設備の耐用年数を知ることは、適切な原状回復負担を判断する上で欠かせません。

ガイドラインでは、各設備の耐用年数を以下のように示しています。

耐用年数設備
耐用年数5年の設備流し台
耐用年数6年の設備冷房・暖房機器(エアコン、ルームクーラー、ストーブ等)
電気冷蔵庫
ガス機器(ガスレンジ)
インターフォンなど
耐用年数8年の設備主に金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚、茶ダンス)
耐用年数15年の設備便器
洗面台等の給排水・衛生設備
主に金属製の器具・備品
建物の耐用年数を適用する設備建物と不可分なユニットバス、浴槽、下駄箱など
6年で残存価値1円と想定される設備畳床
カーペット
クッションフロア
クロス
基本的に経年劣化を考慮しない設備鍵の紛失
襖紙
障子紙
フローリング
畳表など

出典: 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

賃借人負担割合表

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では「建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当」としています。

例えば、耐用年数(定額法)の設備について、借主に原状回復義務が生じた場合、以下のような割合で負担することとなります。

  • 1年経過した場合の負担割合:約80%
  • 2年経過した場合の負担割合:約65%
  • 3年経過した場合の負担割合:約50%
  • 4年経過した場合の負担割合:約35%
  • 5年経過した場合の負担割合:約20%
  • 6年経過した場合の負担割合:0%

なお、借主が原状回復の費用を負担しなければならない可能性がある例には、以下のようなものがあります。

  • 飲み物などをカーペットにこぼしたことで発生したカビやシミ
  • 引っ越し作業でついた傷
  • 掃除を怠ったことで生じた程度のひどい冷蔵庫の下のサビ跡
  • クーラーの水漏れを放置したことによる壁の腐食
  • 落書きなどの故意の毀損
  • 手入れの悪さで生じた程度のひどいキッチンの油汚れ
  • 喫煙などで生じたヤニや臭い

原状回復ガイドラインは事業用物件にも適用

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、もともと民間の居住用賃貸を想定して作成されていますが、このガイドラインが「事業用物件にも適用される」と判断された裁判が存在します。

具体的には、ビル退去における原状回復費用について、貸主側が「民間の居住用賃貸を念頭に作成されているため、原状回復をめぐるトラブルとガイドラインは適用されない」と主張した事例です。(東京地裁判決 平成25年3月28日)

この主張に対して裁判所は「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインは、本件の事業用賃貸契約においても妥当」と判断しました。

つまり、事業用物件でも特約などがない場合、経年劣化など通常使用による損耗は、借主の原状回復が不要である可能性も高いということができるでしょう。

まとめ

国土交通省は、原状回復についての指針として「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」を提供しています。

元々は民間の居住用賃貸を想定して作成されましたが、裁判などで事業用物件にも適用された事例があります。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、各設備の耐用年数や原状回復の賃借人割合なども細やかに記載されているため、 賃貸を利用する方は一読をおすすめします。

(*本記事は2023年6月中旬時点の情報を基に作成されました)