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原状回復

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインとは?法的拘束力や負担割合について解説

2023年3月1日

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、賃貸物件における原状回復の指標が示されています。この記事では、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の内容や、明記されている貸借任・賃貸人の修繕分担表について解説します。

本記事を読むことで、原状回復に関する基準や設備の耐用年数、費用の負担割合が分かるため、貸借人・賃貸人の原状回復に関する話し合いや、敷金精算をスムーズに進めることが可能です。

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインとは

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(後「ガイドライン」)とは、原状回復にまつわるトラブルを未然に防ぐことを目的として、国土交通省が制作したガイドラインのことです。

そもそも原状回復とは、賃貸住宅や店舗、オフィスを退去する際に課せられる義務のことを指します。貸主・借主どちらが原状回復の費用を負担するかを把握していないと、貸主の独壇場となり、借主が損を被る可能性があります。

このような入居期間中や退去時に原状回復に関するトラブルが増えていることから、ガイドラインでは、賃貸人(貸主)と賃借人(借主)があらかじめ理解しておくべき原状回復に関するルールや考え方、費用負担などを示しています。

ガイドラインには、次のような情報がまとめられています。

  • 賃貸契約に関する考え方
  • 原状回復義務の考え方
  • 賃借人の負担対象
  • トラブル解決のための制度
  • 原状回復に関する裁判事例

ガイドラインが最初に公表された平成10年3月以降も、定期的に新しい裁判事例を追加するなどして改訂が行われています。

民間の居住用賃貸を想定

ガイドラインは、民間の居住用賃貸を想定しています。そのため、ガイドラインに掲載されている貸借人の負担対象や裁判事例は、民間向けの情報が中心です。

そのため、店舗や事務所など、事業用建物を想定したものではありません。事業用建物の契約をする際に参考になる部分はあるかもしれませんが、想定が異なることは理解しておきましょう。

法的な拘束力はない

ガイドラインは法律ではないため、法的な拘束力はありません。あくまでも、原状回復をめぐるトラブルを防ぐことを目的とした指標であり、費用負担や考え方、裁判事例などをもとに基準をまとめたものです。賃貸人と賃借人は、このガイドラインを参考にして原状回復や敷金精算に関する話し合いをします。

とはいえ、ガイドライン自体に法的な拘束力はありませんが、裁判所の判例をもとに作られているため、指標に反した行為・取引をして裁判になった場合は、ガイドラインに沿った判決が下される可能性があります。

平成23年に再改訂版を公表

国土交通省がガイドラインを最初に公表したのは、平成10年3月です。そして、その後も平成16年に改訂版、平成23年8月に再改訂版を公表しています。

ガイドラインには、改訂のたびに新しい裁判事例などが追加されています。再改訂版において、見直し・追加された主な情報は以下のとおりです。

  • Q&Aの見直し
  • 新たな裁判事例
  • トラブル未然防止に関する情報
  • 残存価値割合の変更
  • 記載内容の補足

2020年4月1日から民法ルールも変更

2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」に伴い、2020年4月1日から賃貸借契約に関する民法のルールが見直されました。

主な変更点は、以下のとおりです。

  • 賃貸物の修繕に関するルール
  • 賃貸不動産が譲渡されたときのルール
  • 敷金に関するルール
  • 賃貸借終了時の原状回復や収去義務のルールなど

改定前の民法には、どのようなケースだと借主が部屋の修繕をできるのか定めたルールはありませんでした。そのため、「雨漏りを早く修繕してほしいが貸主が対応しない」といったトラブルなどが起きていました。改定後の民法では、このようなトラブルを未然に防ぐべく賃貸物の修繕に関して明確化されました。

A:借主が貸主に修繕が必要な旨を通知、もしくは貸主がその旨を知っていながら必要な修繕をしない場合
B:急迫の事情がある場合

上記AまたはBの場合には、借主は修繕できます。また、借主が修繕したことに対して貸主は責任追及ができないとされています。

出典「原状回復 民法」

原状回復ガイドラインの内容

ここでは、ガイドラインに示される各設備の耐用年数や、貸借人負担割合表について見ていきましょう。

各設備の耐用年数

ガイドラインで示されている主な設備の耐用年数は、次のとおりです。

設備耐用年数
流し台5年
冷暖房用機器6年
金属製以外の家具8年
便器や洗面台などの給排水・衛生設備、主に金属製の器具・備品15年

設備等で耐用年数や経過年数の考慮が異なるため、原状回復費用を算定する際は注意が必要です。

賃借人負担割合表

原状回復における貸借人の負担は、建物や設備の経過年数が考慮されます。そして、経過年数が長いほど、負担割合は減少していきます。

“経年変化・通常損耗の分は、賃借人は賃料として支払ってきているところで、賃借人が明け渡し時に負担すべき費用にならないはずである。したがって、このような分まで賃借人が明け渡しに際して負担しなければならないとすると、経年変化・通常損耗の分が賃貸借契約期間中と明け渡し時とで二重に評価されることになるため、賃貸人と賃借人間の費用負担の配分について合理性を欠くことになる。また、実質的にも、賃借人が経過年数1年で毀損させた場合と経過年数10年で毀損させた場合を比較すると、後者の場合は前者の場合よりも大きな経年変化・通常損耗があるはずであり、この場合に修繕費の負担が同じであるというのでは賃借人相互の公平をも欠くことになる。そこで、賃借人の負担については、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当である。

引用元:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

また、原状回復費用を算定する際の経過年数の考慮は、以下のとおりです。

該当箇所設備等の経過年数と貸借人負担割合
畳床、カーペット、クッションフロア6年で残存価値1円を想定
畳表経過年数は考慮しない
クロス6年で残存価値1円を想定
設備機器耐用年数経過時点で残存価値1円を想定
フローリング経過年数は考慮しない

フローリングを毀損等で張り替えた場合には、建物の耐用年数をもとに算定されます。

(フローリング) ・ 経過年数は考慮しない。ただし、フローリ ング全体にわたっての毀損によりフロー リング床全体を張り替えた場合は、当該 建物の耐用年数(参考資料の資料8参 照)で残存価値 1 円となるような直線を想 定し、負担割合を算定する。

引用元:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

貸借人・賃貸人の修繕分担表

ここからは、ガイドラインに示されている、以下の貸借人・賃貸人の修繕分担表について見ていきましょう。

  • 壁、天井
  • 建具等、襖、柱等
  • 設備、その他

床(畳・フローリング・カーペット)について

「床(畳・フローリング・カーペット)」における修繕分担は、以下のとおりです。

貸借人の負担賃貸人の負担
  • カーペットに飲み物などをこぼして発生したシミやカビ(手入れ不足などの場合)
  • 冷蔵庫の下に生じたサビ跡
  • 引越作業などでついた引っかきキズ
  • フローリングの色落ち(不注意で生じた場合)など
  • フローリングのワックスがけ
  • 畳の表替え・裏返し
  • 家具設置における床やカーペットのへこみ、設置跡
  • フローリングの色落ち、畳の変色など

壁、天井(クロスなど)について

「壁、天井(クロスなど)」における修繕分担は、以下のとおりです。

貸借人の負担賃貸人の負担
  • 台所の油汚れ(使用後の手入れが悪いなど)
  • 結露を放置したことが原因で拡大したシミやカビ(手入れを怠ったなど)
  • タバコなどで生じたクロスの変色や臭い
  • くぎ穴やネジ穴(下地ボードの張り替えが必要な場合)
  • 貸借人がつけた照明器具の跡
  • 落書きなど
  • テレビや冷蔵庫の裏側壁面の黒ずみ(電気ヤケ)
  • 壁に貼った絵画などの跡
  • 画鋲やピンなどで空いた穴(下地ボードの張り替えが不要な場合)
  • 貸借人が設置したエアコンによるビス穴や跡
  • クロスの変色(自然現象の場合)

建具等、襖、柱等について

「建具等、襖、柱等」における修繕分担は、以下のとおりです。

貸借人の負担賃貸人の負担
  • ペットによるキズや臭い
  • 落書きなど故意による毀損
  • 網戸の張り替え(次の入居者のために行う場合)
  • 地震で割れるなどしたガラス
  • 網入りガラスの亀裂(自然に生じた場合)

設備、その他

「設備、その他」における修繕分担は、以下のとおりです。

貸借人の負担賃貸人の負担
  • 換気扇などの油汚れ、すす(清掃や手入れを怠った場合)
  • 浴室などの水垢やカビ(清掃や手入れを怠った場合)
  • 用途違反や不適切な手入れによる設備の毀損
  • 鍵の紛失や破損による取替え
  • 一戸建ての賃貸物件の庭に生い茂った雑草
  • ハウスクリーニング
  • エアコンの内部洗浄(タバコの臭いなどが付着していない場合)
  • 台所やトイレの消毒
  • 浴槽などの取替え(次の入居者のために行う場合)
  • 紛失や破損がない場合の鍵の取替え
  • 寿命による設備機器の故障や使用不能

まとめ

ガイドラインは、原状回復に関するトラブルを防ぐために、賃貸人と賃借人があらかじめ理解しておくべきルールや考え方、費用負担などを示したものです。法的な拘束力はありませんが、裁判事例をもとに作成されています。

ガイドラインは、原状回復で借主が損を被るのを未然に防ぐほか、貸主・借主の話し合いや敷金精算を円滑に進めるために、退去する際はしっかり確認する必要があるでしょう。この記事を参考に、ガイドラインの内容を確認しておきましょう。